しばしば誤解されて語られているが、芸術において完全なる偶然性が求められたことはない。芸術における偶然性の導入は、常に統御されたものであった。その偶然性の導入のおそらく最も早い時期の例としては、マルセル・デュシャンの《3本の停止原基》が挙げられる。これは、長さ1mの糸を1mの高さから板の上に落下させ、その時に現われた形状のままニスで固着させ、それを切り取って定規にしたものであった。この統御された偶然性の作品への導入は、その後、シュルレアリスムの諸作品やジャクソン・ポロックのポアリングにも見ることができるが、方法論的に確立させたのはジョン・ケージである。彼の「チャンス・オペレーション」は、偶然性を作品への観者の介入にまで拡張することとなり、それはハプニングやフルクサスの活動などに多様な形で受け継がれていくこととなる。
(平芳幸浩)
|