サイバーパンク小説の代表的小説家W・ギブソンが『ニューロマンサー』(黒丸尚訳、ハヤカワ文庫、1986)の中で初めて提示した概念。コンピュータ・ネットワークが世界的規模で構築され、ヴァーチュアル・リアリティがしばしば語られる今日、本来「コンピュータ・ネットワーク下の未来宇宙空間」を意味する「サイバースペース」はずいぶんと近しく感じられるが、この概念の提唱者ギブソンの意図は必ずしもそうしたテクノロジーの礼賛ばかりではなく、むしろ強い批判意識が孕まれている。F・ジェイムソンは、戦後の後期資本主義に対応する文化的表象を年代順に三つにわけて検討しているが、そのうち「サイバースペース」が80年代を代表する文化的表象として取り上げられたのは、まさしくその批判意識が読み取られた結果だった。ほかならぬギブソンその人は、「サイバースペース」を「格子」や「マトリックス」に置き換えたり、「総意的幻覚」や「意識下の非空間」といった言葉で説明したりしており、精神的な空間概念としての理解を促している。諸々のメディア・アートが一定のクオリティの精神性を表現し得たとき、それは「サイバースペース」の中に成立したと言えるだろう。
(暮沢剛巳)
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