オーストラリア生まれのアメリカのデザイナー、ヴィクター・パパネック(1925−99)による1971年の著書。デザインを商品を売る手段としてではなく倫理的な行為としてみなすよう訴えたもので、第三世界や身障者たちを取り込んだ世界に対してデザインはなにができるか、なすべきことを主張したもの。商業主義化してしまったデザイン、とくにインダストリアル・デザインを告発し、デザインは社会奉仕的役割を担うとして、資源の再利用、自然な形態の活用、デザインと社会学者や文化人類学者との緊密な協力関係などを提唱し、版権の放棄をも訴え、オルタナティヴ・デザインに大きな影響を与えた。現在では過去のものとされているが、環境問題を含む諸問題を抜きにしては語れない現代デザインにとって、パパネックが論じた倫理的問題点には再考すべき点も多い。
(紫牟田伸子)
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