モティーフの形体や大きさの比率を修正して描写すること。ルネサンスに確立された人体の規範的なプロポーションに対して、バロックの時代に入るとこの典型的な、さらに言えば理想的な人体のプロポーションは意識的に歪めて描かれるようになった。例えば、エル・グレコの絵画には、人体のデフォルマシオンが顕著に見られる。その歪められ、変形された形体そのものから得られる動きによって、さらに、変形された複数の形体の連続性により構図全体におよぶムーヴマンを生み出しており、それらの効果が情動や感情など人間の内面的な精神性をも伝えうるものである。画家による意識的なデフォルマシオンは、近代になると、特にモーリス・ドニのような象徴主義の画家によって、美的な質として肯定的に評価されることになる。デフォルマシオンが、画家の不器用さや未熟さに起因するのではなく、規範に縛られない画家の自由な表現としての率直さを示す造形的なサインであると同時に、画家のある感情や思考を鑑賞者に伝えるシンボルであると考えられたためである。
(安藤智子)
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