1994年9月、川崎市市民ミュージアムにて開催された「ファミリー・オン・ネットワーク」展で、同展に出品が予定されていた大榎淳の写真作品が、展覧会開催当日になって展示中止の憂き目を見た事件。タイトルの通り、この展覧会は家族のネットワークをテーマとした企画展だったが、大榎が同展に出品を予定していたのは、現天皇の家族全員に目張りをした写真がコピー機で複製された作品だった。この展示中止措置は、同展の担当学芸員と展覧会の後援企業であった富士ゼロックス社(大榎が作品制作に使用したのも同社の機械だった)の意向によるものとされる。天皇制批判と受け取られかねない作品に対する、右翼の過敏な反応を事前に退けた側面もあるが、両者は大榎の出品作品の内容を事前に知りつつ開催準備にあたってきただけに、当日の土壇場になって決定された展示中止は何とも後味の悪いものだった。「富山県立近代美術館事件」のように、その後訴訟にまで発展することはなかったものの、芸術表現における天皇制タブーの深刻さがあらためて浮き彫りにされた事件と言えよう。
(暮沢剛巳)
関連URL
●富士ゼロックス http://www.fujixerox.co.jp/
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