「癒し」の効果を持つ芸術作品として真っ先に挙げられるのが、B・イーノやG・ウィンストンらの「環境音楽」だろう。耳に心地よく、また流麗なその旋律は、明らかに芸術を「鑑賞」したり、またロックに「熱狂」したりするのとは違う形で受容されるものであった。もちろん、美術作品にも同種の「癒し」の効果を持つものがないわけではなく、医療の現場では、眼に心地よい美術作品のイメージが治療に用いられることもある。もちろん、それはあくまでも結果であって、「癒し」をそもそもの制作意図とする「ヒーリング・アート」というジャンルが定着しているわけではない。だが、思わず瞑想を誘うようなM・ロスコの絵画空間の深みや、優しく大気を包み込むようなJ・タレルの《ローデンクレーター》、あるいは自然を制作素材としたアースワークの諸作品などに「癒し」の効果を見出したとしても不思議ではない。「癒し」は優れて現代的なトピックでもあり、この点に注目して『美術手帖』の1995年8月号は「祈り/癒し」と題する特集を組んでいる。その作家・作品の選択はかなり恣意的だが、当然、前述の作家らも含まれている。
(暮沢剛巳)
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