「ムンダネウム」は、1929年ジュネーヴに国際連盟10周年を記念して計画された世界文化センターの名称である。ル・コルビュジエはその施設の中心に位置付けられていた「世界美術館」の設計を担当し、「成長する建築物」なる、螺旋ピラミッド構造をもつ美術館を考案する。中心から発し、理念上永久に拡張し続ける美術館というコンセプトは、時間の経過とともにその外縁を拡張していく美術の時間性をも視野に入れたものと言える。この計画は実現されなかったものの、螺旋空間によって構成される「無限発展の美術館」構想は、31年のパリ「現代芸術センター」プロジェクトにも引き続き持ち越され、以後ル・コルビュジエの生涯を通じて彼の美術館建築の基幹的コンセプトであり続けた。初期に採用された、ピラミッドの頂点へと収斂する連続壁面による構造はその後放棄され、美術館の中心から水平方向への漸次的な拡張が可能な方形螺旋構造の展示室がそれに取って替わり、拡張とそれに伴う展示空間の配置転換が意図されたことで、美術館内部も複雑で流動的な空間構成となった。ル・コルビュジエはこのコンセプトに基づいた美術館を幾度となく計画しているが、そのほとんどが実現に至っていない。わずかにアーメダーバード美術館、上野の国立西洋美術館、チャンディガール美術館が建設されている。
(宮川暁子)
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