西欧の伝統的な美術教育・美術表現に関する技術訓練を、全く、あるいはほとんど受けていないためにかえって素朴な力強さや独創性が評価されるような作品を指し、「素朴派」とも訳されるが、プリミティヴ・アート同様その定義が含むカテゴリーはかなりの混在状態にある。オックスフォードの20世紀美術辞典はナイーヴ・アートを作者が個人的な楽しみのために通常単独で制作するものであり、子供や精神病者の作品、民族・部族美術は含めないとしているが、これらをすべてナイーヴ・アートとして行なった大型展覧会も存在する。すなわち、「プリミティヴさ」や「ナイーヴさ」というカテゴライズはあくまで美術に関する西欧の伝統的知に対する未開・素朴(無知)を意味している。「素朴派」の確立は、19世紀末のパリでH・ルソーのようなアンデパンダン展(無審査展)出品作家に対し、ルノワールやピサロといったプロの画家、独の評論家W・ウーデが「素朴な画家」「聖なる心の画家
peintres du coeur-sacré」といった称号を付して喧伝したことに始まる。アメリカでは独立以後20世紀初頭まで独学の職業画家が多く、素朴派と定義される例は少ないがグランマ・モーゼスの名が知られている。なお、ユーゴスラヴィアを中心とする東欧では20年代より職業画家が地方に入って素朴画家を発掘・奨励する動きが活発だったが、これらは60年代後半に表現の固定化へと陥ることとなった。「西欧・現代の無垢」としてのナイーヴ・アート(とその信奉)が持つ危うさがそこに存在する。
(三本松倫代)
参考文献
●CH.Osborne(ed.), The Oxford Companion
to Twentieth Century Art, Oxford Univ. Press, 1981, p. 393-396.
関連URL
●C・ピサロ http://www-personal.umich.edu/~macduffe/
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