西欧の美術史において「プリミティヴィズム」を語る場合、通常中世の宗教美術から子供・精神病者の絵画表現まで多くの「プリミティヴなもの」が立ち現われる。すなわち、プリミティヴ・アートという用語は(1)19世紀末に流行となった非西欧の原始・未開美術、(2)遠近法と解剖学の知識を持たないルネサンス以前の西欧美術、(3)アカデミックな教育を受けていない美術表現(=ナイーヴ・アート)の三つに対して現在でもしばしば混在して使用されているのである。しかし、現在「プリミティヴ・アート」として最もポピュラーな定義は(1)の「先史時代の原始人および現存の部族社会の美術」を指すものであろう。地域によって差異はあるが、その表現規範として「見たもの中心」「正面性」「感情の不可欠性」が挙げられる。また、被創造物とその循環というテーマの表現に視覚的・形式的な美や快が意図されることはなく、抽象表現が心情や知覚の「写実表現」として表わされている点で西欧美術と異なるとされる。19世紀末の列強諸国のアフリカ・オセアニア進出によって母国の民族学博物館にもたらされたこれらの部族美術はフォーヴィズムや表現主義の作家たちに大きな影響を与えた。
(三本松倫代)
|