N・ペヴスナーのデザイナー中心主義のデザイン史に異義を唱え、それまでのデザイン史に対して「デザイン理論がまずしいのは、デザインをアートと混同し、制作の産物を美術作品とみなしてきたことによる」と述べる。S・ギーディオンのテクノロジーと社会的価値観とによって決定づけられるとする方法論に対しても不徹底をみたフォーティは、本書でデザインとそれをとりまく社会的価値観、市場の論理、技術発展、イデオロギーなどの複雑な関係を前提として、いくつかの問題をテーマ設定し、その複雑な関係性のなかでのデザインの成立を検証する。ウェッジウッドの工場やシンガーミシンの実例とプロセスを検証しつつ、家庭、オフィス、企業それぞれのデザインとその社会文化との関わりをひもとく。本書はこれ以降のデザイン史のバイブルになっていると言ってもよい。
(紫牟田伸子)
●エイドリアン・フォーティ『欲望のオブジェ――デザインと社会1750−1980』
(原書=1986年刊/邦訳=高島平吾訳、鹿島出版会、1992)
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