美術史の概説書を繙けば、少なくとも「モダンアート」の章までは、「オリジナリティ」という概念によって作者や作品の評価が極めて強く呪縛されていることがわかる。美術作品の創造行為は、この世に二つとない“オリジナル”なものを生み出すことにこそ価値があり、いつの時代でも数多いる作者のなかで、目覚ましい成果を挙げた天才だけが後世の美術史への登録を許されるのだ、と。このような唯一性を絶対的基準とする価値観は、20世紀に入って重大な修正を迫られることになった。無論その背景にあるのは写真や映像といった複製芸術の登場であり、W・ベンヤミンの「複製技術時代の芸術作品」以来、じつに多くの問題が提起されてきた。ただ、昨今の「メディア・アート」など、容易に複製可能な表現の隆盛が、必ずしも「オリジナリティ」の神話を全否定していることにはならない。1980年代の「アプロプリエーション」にしても、素材はともかく、その「流用」の仕方が「オリジナリティ」を問う側面もあるからだ。いずれにせよ、今後「オリジナリティ」の議論は、過去の美術史の再考も含めて、ますます多様な視点を求めることになるだろう。
(暮沢剛巳)
|