遠近法の起源については諸説あるが、現在のところ最も有力な説はその時期をルネサンス期に見るものだ。すなわち、アルベルティ+ブルネレスキによるcostruzione
legittimaこそ、画面の中に唯一の消失点を設定し、そこを起点として対角線状の構図を描き出すことで、平面の中に三次元的な奥行きを生み出す一点消去遠近法を確立したというものである。この立場の説得力は、美術史学の蓄積、とりわけ『〈象徴形式〉としての遠近法』(木田元訳、哲学書房、1993)をはじめとするE・パノフスキーの諸研究によるところが大きいが、しかしperspectivaというラテン語はルネサンス期よりはるかに以前より存在していたのだし、ウィトルウィウスによる透視図法(スケノグラフィア)も、平面上に三次元的な奥行きをもたらすという点では遠近法と同様の効果をもっている。H・ダミッシュの大著『遠近法の起源』(未邦訳)によれば、視点と消失点が鏡像関係をなしていることこそ遠近法の成立要件だという。他方、18世紀以降には画面に複数の消失点を設ける二点消去遠近法が登場してくるが、その登場がもたらした知覚の変容は、ロックの『人間知性論』などの新しい思想によって検討されていくことになり、現在はイリュージョンとの関連から論じられることも多い。
(暮沢剛巳)
|