1970年代に文学研究で提唱され、80年代に美術研究へも導入された比較的新しい美学研究上の立場。読者(受容者)の解釈行為の中から作品の意味を考えていこうとするのがその趣旨であり、作者の意図に主眼を置く「生産美学」や、作品の成立基盤を重視する「叙述美学」に対置されることから「受容美学」の名で呼ばれるようになった。「受容美学」の概念的基盤となったのはH・G・ガダマーの作用史概念とされるが、実際にそれを定式化したのはH・R・ヤウスとイーザーを中心とする「コンスタンツ学派」である。ヤウスらは、作者も読者の1人として定位し、『挑発としての文学史』(轡田収訳、岩波現代文庫、2001)において、作者・テクスト・受容者の3極構造を分析した。その際に、未だ解釈されていない作品の「期待の地平」が、この3極構造にどのような影響を及ぼすかを解明しようとしたのが「受容美学」の基本的な立場である。ここで主張された認識構造は、後にケンプが絵画の作品構造の分析へと適応した際にもそのまま引き継がれた。ケンプによれば、絵画の「受容美学」は、作品そのものが孕む観者(受容者)への指示と、受容者側の社会背景の分析によって成り立つという。
(暮沢剛巳)
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