言語学者O・イェスペルセンが用いた概念。R・ヤコブソンの論文によって有名になった。「私」「あなた」といった代名詞に代表され、その指示対象が対話者との関係においてのみ決定されうるという特徴をもつ。幼児の言語習得においては遅く習得され、失語症においては早く失われる。その文脈依存性に着目したR・クラウスは「指標論」において、70年代の現代美術作品を転換子との関連で特徴づけている。C・S・パースの記号分類にしたがうと転換子は指標的象徴とされるが、パースが写真を指標として分類していることを受けたクラウスは、とりわけ転換子の指標としての性質に着目し、M・デュシャンの《グリーン・ボックス》において初めて写真と指標が明示的に結び付いたと述べる。R・バルトやW
・ベンヤミンの写真論における写真とキャプションの関係を考察することで終わるこの論は、70年代の諸作品におけるヴィデオや写真の広範な使用という事態を分析しようとしたものだが、ここから二つの事を指摘することが可能である。ひとつは展示空間の「いま」「ここ」が主題化されることにともなうコンテクスチュアリズムの浮上であり、転換子の機能とも一致する。もうひとつはイメージとキャプションによる作品の二重化という事態であるが、指標である事物痕跡に対してキャプションが代補的に機能するという様態は、後に広まるインスタレーションにおいて広く用いられたものでもあり、クラウスの分析の焦点もここにあるように思われる。
(石岡良治)
関連URL
●M・デュシャン http://www.artchive.com/artchive/ftptoc/duchamp_ext.html
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