作家が作品に記す名前。サイン。作品の真贋鑑定の大きな手がかりとしても利用されるが、レディ・メイド以降の芸術にあっては別の意味を帯びる。つまり作家の手の働きが介在せず、選択にのみ還元された芸術行為は、事物への署名行為と一体化するのである。レディ・メイドは芸術を判断命名の行為に還元するものとして捉えることが可能であるが、それは同時に作者と観者の境界線を喪失させる行為でもあった。しかしながら、この判断命名の行為が署名行為を一体化した途端に事態は転倒し、倒錯的な様相をとらざるをえなくなる。つまり、還元された署名行為そのものに作者の選択、判断、命名、すなわち作者の思考の内発性を見出す視線を召喚することになるのである。
(平芳幸浩)
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