J・ポロックやF・ステラが追求したイリュージョンの排除は、一切の感情を寄せ付けないミニマルな単体において完成をみる――この一般的な「ミニマリズム」解釈の立場に立った場合、D・ジャッドは典型的なミニマル・アーティストとみなされるひとりだが、しかし当の本人はこのレッテルを頑なに拒否していた。絵画でも彫刻でもない「スペシフィック・オブジェクト」とは、ジャッドが65年に執筆した同題のミニマリズム論において提起された、多くの批評家が一見矛盾した彼の態度を説明するための拠り所としてきた概念なのだが、じつのところジャッドその人の意図は、属(ジェネリック)な客体に対して、種(スペシフィック)な客体の優位を説くという極めて思弁的なところにあり、「特殊な客体」というリテラルな訳語によってその核心を理解することはできない。従来の解釈の欠落を埋め合わせ、またジャッドその人の変遷をたどるためにも、今後彼の建築家としての側面も視野に入れた再解釈が求められるだろう。
(暮沢剛巳)
関連URL
●ポロック http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/people/j-pollock.html
●ステラ http://www.dnp.co.jp/gallery/ccga/ca/frank/frank.html
●ジャッド http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/people/d-judd.html
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