『イコノロジー研究』は1939年にE・パノフスキーによりアメリカで出版された。この本の基礎付けとなったものとして「造形芸術作品の記述と内容解釈の問題」(1932)があり、この論文は多少の変更が加えられて『イコノロジー研究』の序論に載せられている。「イコノロジー」とは作品の主題・意味を取り扱うことによる美術作品の解釈方法である。パノフスキーは序論で3段階に分けてイコノロジー的主題・意味の解釈に至る道筋を説明している。すなわち第1段階としては、描かれている自然な対象を認め、その表現する雰囲気を認識することである。第2段階は小刀を持った男性像が聖バルトロマイを表わし、一定の姿勢で食卓につく人々が最後の晩餐を表わすというような伝習的主題で、これは「狭義のイコノグラフィー」(改訂版においては「イコノグラフィ」とされている)と呼べるものである。第3段階は内的意味、内容を問うことで、そのためにはつくられた当時の思想、宗教、社会状況など人間の文化全体に照らしてその作品を見なければならないとする態度である。それは絵画に描かれた個々の要素をE・カッシーラーの「象徴的価値」として解釈することである。ここに至ってその美術作品は、限りなく多様な他の徴候の中に表われている何か別のものの一徴候として扱われるのである。この「象徴的価値」を発見し解釈することが「深い意味におけるイコノグラフィ」(改訂版では「イコノロジー」に変えられている)の目的であり、分析より総合によって生じる解釈方法である。
(山口美果)
●E・パノフスキー『イコノロジー研究――ルネサンス美術における人文主義の諸テーマ』(浅野徹ほか訳、美術出版社、1971)
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