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趣味 Taste


価値概念としての「趣味」を顕揚した著作として真っ先に挙げられるのが、カントの『判断力批判』である。合目的性に即して制作・鑑賞されるはずの芸術に対して、その判断が快・不快の感情によって区別されてしまうのはなぜか――カントがその根拠を求めたのが、ドイツ語で言うところのGeschmack、すなわち「味覚」としての「趣味」にほかならない。ここでの趣味判断とは、美的判断、政治的判断、機能的判断などさまざまな価値判断が入り乱れている状態で下される判断であり、それは逆説的に、可能な限り雑多な価値を排除して純粋な知覚野を確保する必要を説いていることになる。20世紀前半に確立されたフォーマリズム批評は、ある意味ではこの純粋な知覚野の確保を、純粋な形式についての言説へと置き換えることで成立した、「趣味」概念をめぐる言説であったといっても過言ではなく、ためにC・グリンバーグはフォーマリズムにおける「標準的な趣味」の必要を力説した。しかし、当のグリンバーグの趣味判断も、その多くをトロツキーとT・S・エリオットに負った偏向的なものである。その言説が、L・ヴェンチューリの「趣味の政治学」との相関関係で語られねばならない理由はそこにある。またそれとは別個に、「趣味」の問題を階級の問題と結びつけ、そのイデオロギー的側面を強調して「ハビトゥス」という概念を案出したP・ブルデューの仕事も極めて重要なものである。

(暮沢剛巳)


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