言うまでもなくこの概念の起源はマルクス=エンゲルスの『ドイツ・イデオロギー』にあり、「ブルジョワ」や「プロレタリアート」といったそれぞれの階級の価値観を代弁する理念というロシア革命によって確立されたその定義は、60年代のL・アルチュセールらによる再検討を経た今でも完全には更新されていない。そのため、芸術における「イデオロギー」の議論もまた、「未来派」や「バウハウス」、あるいは「社会主義リアリズム」のように、同時代の社会的趨勢と密接な関連にあった動向の、政治的な性格を指摘することに終始し、「芸術」という美名のイデオロギー的機構は黙殺され続けてきた。米ソ冷戦終結後の「ポストコロニアリズム」は、俗に言う“右”と“左”の政治的分割の批判的再編を迫る側面があり、芸術もまたこの問題と無縁ではない。今後この分割に内属しない芸術という「イデオロギー」の所在を明らかにする作業が求められるのではあるまいか。
(暮沢剛巳)
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