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21世紀のアートを展望する
市原研太郎 |
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"Fantasia"――クロスボーダーが生み出す生命力 このような観点から見て、非常に興味深い展覧会がソウルで開かれていた。"Fantasia"とタイトルされたこの企画展は、アジアの各国を巡回す"るUnder Construction"と銘打たれたプロジェクトの一環として実現された。このプロジェクトでは、地域的に見ればアジアに限られているものの、マルティカルチュラルな世界と呼ぶに相応しい多様性をもつ国々から複数のアーティストが選ばれ、7つの国(中国、インド、インドネシア、日本、韓国、フィリピン、タイ)の都市で展覧会が行なわれる。それだけならば、アジアの一地帯で行なわれる巡回展ということですまされてしまうだろうし、この類の国際展が果たす役割は、せいぜい個々の作品を通して、各国の現代文化を紹介するという域を出まい。しかしこのプロジェクトは、事前に、展覧会を企画する複数の国の若手キュレイター間で相互の接触があり、それぞれの国で立ち上げられる展覧会に関してさまざまな議論のやり取りがあることが大きな特徴となっている"Under Construction"というプロジェクト名も、ここからつけられた)。つまり、展覧会に出品するアーティストだけではなくそれを企画するキュレイターのレベルでも、クロスボーダーの有意義な交流があり、作品だけではなく展覧会作りのプロセスで、新たな社会関係の形成が模索されているのである。さらにこのプロジェクトが産みだす展覧会が、文化的な交流と混合をテーマとしていて、各作品のなかで、アジアの諸国における現在の文化の有り様に対する考察が明らかにされる。
さて "Fantasia"は、このプロジェクト・シリーズ第2弾として、都心部から少し離れたソウルのウォール街近くにある東亜日報の社屋を用いて開かれた。この会場は元々展示用に建てられたのではないため、非常に堅固な建物の造りが、内部のスペースに置かれた作品を物理的に圧迫しているように見えた。とはいえ、ソウルのオルタナティヴ・スペースを運営しているギャラリストがいみじくも言ったように、まさに理想的なオルタナティヴであり、今後も展示会場として確保されることが決まったという。展覧会は、3人のキュレイター(Kim Sunjung、Pi Li、神谷幸江)が企画を担当して、Fantasiaを理想郷にではなく日常生活のなかに探索し、それを素材として表現を展開している韓国、中国、日本、タイ出身の13名のアーティストが出品した。アジアの日常生活とはいえ、文化圏が異なれば同一でないことは明白だが、とりわけ都市生活はグローバルなモダンの文明とローカルな伝統文化混在しているという点で、アジアの各都市は共通していると言えるだろう。グローバルなものとローカルなものは離反するのではなく結合しうるというオプティミスティックな信念が、Fantasiaのコンセプトに浸透している。20世紀のアヴァンギャルドのように、アートの実践を理想に向けることが結果的に反理想へと転化することが明らかになった以上、アイロニーではなく現実世界(日常生活)にFantsiaを訪ねるほかないのかもしれない。しかしながらアジアの都市のカオティックな雑踏に見事に現れているように、fantasiaに展示された作品ばかりでなくソウルの日常生活を埋め尽くすハイブリッドな文化は、たくましい生命力に横溢していて私には21世紀のアートの可能性を暗示しているように思われた。 |
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