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ランドスケープと建築・「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2003」を見て 日埜直彦 |
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前回の越後妻有トリエンナーレ2000においても、ジェームズ・タレルの《光の館》のような建築化された作品はあったが、基本的にはアーティストの作品を主眼におく建築化されたインスタレーションとして作られている。今回のようにアートイベントに併せて永続的な建築が建設されるのはあまり例がないことではないだろうか。予算的にも運営的にも困難が予想されるところでありこのアートイベントが地域に根を下ろし、地域に浸透して運営されていることが察せられる。 十日町ステージ 京都駅などで知られる建築家、原広司による《十日町ステージ「越後妻有交流館・キナーレ」》はなかでも最大の施設である。建物の構成としては、42メートル四方の池を回廊が囲み、その回廊に沿って十日町の伝統的産業である着物の歴史展示、染めや機織りを体験できる工房、着物にまつわるショップが並ぶ。温泉施設がこれに接して配されており、この種の施設としてはごく一般的なプログラム構成だろう。 この施設の核となるのはあくまで池であり、それを囲む開放的な回廊だろう。この空間はどこか修道院のクロイスターを思わせる平穏な雰囲気を讚えている。クロイスターとは教会堂や集会場、聖書が収められた図書室などの空間に取り囲まれるようにしつらえられた中庭であり、修道士にとって俗世間から切り離された休息の空間である。積雪の多いこの地域においてこの回廊は、風を遮り雪の積もらない貴重な屋外空間になるだろう。十日町ステージの回廊のスケールはもちろん修道院のそれに対してかなり大きく、賑やかな雰囲気もある。訪れた時にはイベントのためのステージが池に設営されていて、ちょっとした広場のような情景であった。 |
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松代ステージ
形態からして挑戦的である。農村の生活を展示するこの施設の空間は2階に差し上げられているのだが、それを支える柱はこの建物に存在しない。2階のスペースへとアクセスするチューブ状の階段自体がこの建物を支える構造体となっており、扁平な正方形のヴォリュームから6本の足が生えたクモ型ロボットのように見えなくもない。愉快なことにヴォリュームの上には山並みのシルエットのような、あるいはツノのようなギザギザした鉄骨が見える。もちろん装飾でも何でもなく、この形態を実現するために必要となった構造部材である。近くから見ると異様な光景でもあるが、少し離れてその風景を振り返ると意外に山あいの風景の中で不思議にしっくりと納まって見える。 駅から歩いてくると出迎えるようにその足のような階段チューブが出迎える。駐車場からアプローチするとそこにも足が出迎えている。このチューブを上がっていくと、建物のヴォリューム内部の廊下になり、そのまま真っすぐ別の足を降りて向こう側に抜けるという具合で、この種のちょっとコミカルな感覚にMVRDVらしさがよく出ていると言って良いだろう。実際この足はなかなか器用で、カバコフのインスタレーションを見るのにちょうど良い位置では足の上が展望台となり、別の足はヴォリュームの下に確保されたオープンスペースでイベントを行うためのコンソール・ルームになっている。 建物本体の内部にはアーティストとのコラボレーションによりコーディネートされた、2つの展示室、ショップとカフェがあり、窓の外には視線の高さによって意外なほどに姿を変える山の風景が広がっている。 |
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松之山ステージ
キョロロという愛称のとおり、どこかヘビが首をもたげてキョロキョロしているような、そんな姿をしている。展示施設というよりはテーマパークにでもありそうな巨大なキャラクターのようでもある。もたげた首は地上34mの高さの展望台となっており、頂部からは広大に広がる里山とつつましい集落が遠望出来る。 機能的には、里山の自然についての展示施設としてしつらえられている。チューブ状の展示空間を歩いていくと巨大な水族館用の透明アクリルで作られた窓があり、展示物を見て里山の自然について学びながら、周囲の里山が目に入ってくる。この特殊な窓は5メートルに達する積雪の圧力に耐え、雪が積もる断面を館内から観察できるという。 松代ステージと松之山ステージはいずれもランドスケープのなかで映える建築であり、十日町ステージはむしろ内部に向かい場を獲得する建築である。松之山ステージがどこかしら生きものを思わせる姿であるのに対して、松代ステージには何かしら具像的な印象はあるのだが同時に無機的な突き放したような感覚もある。十日町ステージはその意味で言えばむしろオーソドックスな建築かもしれない。建築的に見れば、オーソドックスな十日町ステージよりも、ランドスケープと対峙する松代ステージと松之山ステージが印象に残るが、いずれも注目に値する建築である。 [ひの なおひこ] |
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