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中川幸夫 魂の花展
元田典利展
植松奎二展 
身体と眼差しへの思考
川浪千鶴[福岡県立美術館]

 
福岡/川浪千鶴
神戸/木ノ下智恵子
東京/南雄介
倉敷/柳沢秀行

中川幸夫「霧島」
中川幸夫「霧島」
中川幸夫「霧島」
元田典利展
元田典利展
元田典利展
植松奎二展01
植松奎二展02
植松奎二展03

●上3点「中川幸夫展」
●中3点「元田典利展」
●下3点「植松奎二展」
上:同展チラシ
中:70年代のパフォーマンス再演 下:「落下する水、上昇する水」2003年

 中川幸夫、元田典利、植松奎二。
 4月から5月にかけて私が見た個展の作家名を順番に並べてみた。
 この3人には年齢も作風も発表場所も出身地も…、ほとんど接点はない。が、振り返ってみると、どこか奇妙に共通する点が見えてくる。
 80代の中川さんにせよ、50代の植松さん、元田さんにせよ、ベテランなりに個展経験は豊富だが、今回の個展がそれぞれにとって極めて重要な節目になっていること。そして、身体と日常に対する認識が、意外なくらい真っ向からゆるがされたこと、などをまずはあげてみよう。
 中川幸夫さんは、現代いけばな作家として、半世紀もの孤高の創作活動を行ってきた人。知る人ぞ知るといった存在から、ここ10年ほどで国際的にも注目を浴びるようになった。85歳にして初の美術館での個展は、遅すぎるというのは簡単だが、「瞬間の芸術」「密室の芸術」でもあるいけばな、しかも「中川幸夫の花」を、美術館規模で展覧会として「展示」するタイミングを図るのが、極めて困難だったことは想像に難くない。作家が長年、作品集という「作品」や本の形での鑑賞、またはパフォーマンスなど一瞬の表出にこだわってきたことはうなずける。しかし、これほど生涯をかけて真剣勝負を行っている芸術家はほかにはいない。インスタレーション、写真、書、ガラスなど、多様な作品の全容を伝える展覧会は待たれて久しかったといっていい。
 残念ながら、今回は会場の関係もあって、展覧会全体はコンパクトな印象は否めないが、長年撮りつづけた花の写真作品と、本展のために描かれた書とドローイング、そして現場制作された、鹿児島特産の青竹を使ったインスタレーションでまとまりよく構成されている。「死や腐や毒をも含んだ生の威厳」を扱った中川さんの花の写真は、「見る」ことの繊細さと激しさ、美しさとおぞましさを教えてくれる。そして、「見る」ことが精神的であると同時に、何よりも眼という肉体を通じた生々しい行為であることを真っ直ぐに突きつけてくる。その生々しさは書作品にも通じており、筆を躍らせる中川さんの肉体が、制作過程の写真を通じずともすぐそばに感じられる気がした。
 元田典利さんは福岡県在住の現代美術家で、ここ10年間、アイドルの工藤静香や加藤あいの、雑誌、ポスター、ビデオ、CMなどなど、情報の海に次々と浮かぶ泡のような、雑多な関連物を収集し、時代と個をテーマにした作品を形成してきた。今回わかったのは、私がこれまでに見た、作家が美術館のスペースを借りて開催した個展はそのごく一部だったということ。自分の部屋の中での生活と創作、年をとっていく親子や家族、家の存在…そうしたプライベートな場と関係のなか、日々加速度的に「制作」と「発表」は続けられている。
 今回の個展は説明的にこの10年間を総括するようでもあるが、介護を受けるようになった老いた両親の日常生活も写真におさまって、工藤静香や加藤あいのイメージとともに並んでおり、どこからどこまでがひとつの作品ということにあまり意味はないようだ。すべてが2003年現在に立っているということもできる。ブレッドマンやアートママなどの作品で知られる折元立身氏と交わりが深いと聞き、彼の影響は確かに強く感じさせられた。が、情報という日常にせよ、介護と家庭生活という日常にせよ、等身大に受け止め続けている元田さんの、生活者としての美術がどう変貌していくか油断できない。
 植松奎二さんは、関西とデュッセルドルフを往復しながら活動する、ベテラン彫刻家として知られている。今回の個展は、作家自身が長年希望していた初期作品、70年代の写真と新作のビデオ作品に絞った、とても興味深い内容になっている。
 初期作品とはいっても、「みえる構造・存在・関係をあらわにみえるようにすること。みえない構造・存在・関係をあらわにみえるようにすること。みえる構造・存在・関係をみえなくすること。」という作家のテーマは、現在も続いており、その鮮度は失われていない。そして、「構造・存在・関係」といった抽象的な言葉が、写真におさめられた作家の身体、文字通り身をはったパフォーマンスによって、核心がぶれることなく、かつなんともユーモラスに「理解」できるおもしろさ。再演されたコード付きの電球とマイクをまわすパフォーマンスも、作家の肉体には30年の年月の隔たりはあるとはいえ、その伝えるところと伝わるところは初演時と少しも変わっていないと確信できる。理念と実践が、身体と日常という移ろいやすい媒体を通じて、これほど明解に一貫していることは驚きそのものだ。

会期と内容
●中川幸夫 魂の花展−青竹ひらく霧島
会期:4月29日〜6月8日
会場:鹿児島県霧島アートの森
問い合わせ先:鹿児島県霧島アートの森(0995-74-5945)
URL:http://www.open-air-museum.org/

●元田典利展
工藤静香パフォーマンス1993-2003/加藤あいインスタレーション・パフォーマンス
会期:5月7日〜5月11日
会場:福岡市美術館 特別展示室B

●植松奎二展
身体と眼差しへの思考−'70sの写真・映像から新作まで
会期:5月3日〜6月1日
会場:北九州市立美術館
問い合わせ先:北九州市立美術館(093-882-7777)
URL:http://www.city.kitakyushu.jp/~k5200020/


  
学芸員レポート

 自分が担当しているのになんだが、「RE/MAP北天神」とはなにかと聞かれても、会期半ば過ぎた今も、何だかよくわかっていない。私にとって「地図」とは何かと問うことと、「RE/MAP北天神」の私なりの活用を考えること。個人的には「RE/MAP北天神」の目的をこうとらえている。
 2001年9月からはじまったRE/MAP プロジェクト(詳細はHP参照http://remap.jp/)は、これまでギャラリーSOAPを拠点に北九州市小倉界隈で行ってきたので、これが初の福岡プロジェクトとなる。ギャラリーSOAPを運営する美術家の宮川敬一さん、rhythm代表の遠藤水城さん、trivia主宰の田北雅裕さん、アートアクティヴィストの福住廉さんら、職業も関心領域もさまざまなメンバーや参加者たちが、それぞれの視点で、今回は福岡市の北天神エリアの再地図化を試みている。
 北天神とは、実は地名ではなく、天神という福岡市の繁華街の北、海側の地帯を総称している。前身の福岡県文化会館時代から40年近い歴史をもつ福岡県立美術館や、かつて大陸からの引揚者が多数居住していた須崎公園一帯、同人誌ショップが立ち並ぶ天神4、5丁目界隈など、北天神エリアは、街の中心が南側にのびている現在、さびれていて、マイナーな土地柄ながら、いつの時代もどこかのんびりとして、すきまが多くて、ほっとするといった不思議な魅力(?)をもっている。
 展覧会とはいっても、RE/MAPはディスカッションやトークが主体で、今回の「RE/MAP北天神」も、会期中5日間開催を予定しているイベントに参加しないことにははじまらないのは事実。
 これまでのイベントは、まず5月3日「北天神・再地図化計画(北天神散歩、ワークショップ)」と「ディスカッション:RE/MAP北天神って何???」、「オープニング・パーティー:バーベキュー」。
 翌5月4日、「福岡県立美術館を紐解く」と題して「美術館を建てた佐藤武夫」について当館11代目学芸員が話し、福岡県文化会館初代学芸員が昭和39年開館当時の美術館活動の顛末を「美術館事始め」としてトーク。さらに、「アートスペース・バトルトーク」で、アーティストたちが自主運営している福岡市、北九州市のアートスペースのメンバー(耘野康臣:IAF Shop*、成田鐘哲:共同アトリエ3号倉庫<以上福岡市>、阿部幸子:成長型アートスペース level 1、宮川敬一:ギャラリーSOAP<以上北九州市>)が本音のトークを行い、次ぐ「ディスカッション:アートをめぐる場の可能性について」で、一部、二部の話を参考にしながら、アートをめぐる場の問題点と可能性について、参加者全員で討論を行った。
 5月11日は、植物学の専門家を招き、須崎公園の植物について学ぶワークショップ「須崎公園、植物ツアー」を開催。その後も、5月25日の「dialogue 〜北天神を考える〜」や、最終日6月1日の「クロージング・イベント」などのディスカッションが予定されている。
 何かひとつに結論づけるでも、展示として完成形があるのでもない。ひとつの場所を介してはいても、そこからどこへでも出入り自由。さまざまでそれぞれでいて、表面的なようでいてふと深みにはまる。この中途半端さ、あいまいさがRE/MAPの真情、ととりあえずいっておこう。

会期と内容
●アートの現場・福岡VOL.13 RE/MAP北天神 
会期:5月1日〜6月1日
会場:福岡県立美術館
問い合わせ先:福岡県立美術館(学芸課川浪)/ 092-715-3551
ギャラリーSOAP / 093-551-5522
RE/MAP のURL:http://remap.jp/


[かわなみ ちづる]

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