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ヘレン・フランケンサーラー木版画展
福島/木戸英行[CCGA現代グラフィックアートセンター]

 
札幌/吉崎元章
福島/木戸英行
東京/増田玲
高松/毛利義嗣

「ヘレン・フランケンサーラー木版画展」
「ヘレン・フランケンサーラー木版画展」

CCGA現代グラフィックアートセンター
「ヘレン・フランケンサーラー木版画展」チラシ

 最新の「版画芸術」誌(2003年、120号)では、「版画は、いま」と題して、国内の有力版画商たちによる誌上座談会が特集記事だった。テーマは「版画マーケットの現況と将来」なのだが、当然のことながら、平成不況によるマーケット縮小や、ヒロ・ヤマガタやラッセンといった、いわゆるコマーシャル版画問題、デジタルプリントなどの新メディアや新しい作家の台頭への版画業界の適応など、いま版画が置かれている困難な状況をいかに乗り越えるかが主な論点となっている。この種の不景気な話題は、版画に限らず世の中のほとんどあらゆるシーンですっかり日常化しており、正直に言って、いまや何の新味もない。とはいえ、版画というメディアの本質が何なのか、版画家たちはなぜ版画を制作するのか、という問題をあらためて自問自答する機会にはなった。

 ぼくが大学で版画を専攻したのは、いまから約20年前の1980年代前半である。アメリカにおける版画ブームが60年代から70年代。日本でも少し遅れて60年代末から70年代には版画ブームがはじまっている。ぼくが版画を勉強しはじめたのは、それからさらに10年後になるのだが、それでも、版画はまだ勢いを保っているように、少なくとも当時のぼくにはそう思えた。勢いとは抽象的に過ぎるが、ようするに、一人の美術学生として、絵画でも彫刻でも、あるいはインスタレーションやパフォーマンスでもなく、あえて版画を専攻しようとする積極的な動機づけとなる何物か、このメディアでなら何かまったく新しいものをアートの世界に生み出せるかもしれない、という予感のことだ。版画の世界に新しい何かをもたらすのではなく、美術の世界に版画で新しい何かをもたらしたかったのである。いまから思えば恥ずかしい限りで、大それた野心といわなければならない。
 「版画でなら何かまったく新しいものをアートの世界に生み出せるかもしれない」という、ぼくの勘違いの原因はいくつかあるが、高校生の頃から惹かれていたアメリカ現代版画はそのうちの大きなひとつだ。ぼくには、画集や雑誌で目にするジョーンズやラウシェンバーグ、ステラなどの版画作品が、彼らのオリジナルの絵画作品よりも新しく、魅力的に見えた。もっとも、これは、彼らの版画が本当に絵画に優っていたのではなく、版画特有のある種の親しみやすさが理由であることを、いまは知っている。オリジナル作品が発する強烈な、場合によっては凶暴ですらあるアウラではなく、紙に印刷されることでマイルドかつクリーンに薄められたアウラのほうが受け入れやすかっただけのことである。
 後年、アメリカにおける版画ブームの立役者の一人であるプリンターのケネス・タイラーとの会話の最中、どういう文脈だったかは忘れたが、彼が版画のことをクラフトと言ったのを聞き、少なからずショックを受けたことがある。とうの昔に作家になる夢は捨てていたが、ぼくにとって、版画はあくまでアートであって工芸ではなかった。ましてや、彼がアメリカ美術のスターたちとのコラボレーションで世に送り出してきた数々の革新的な版画作品は、ぼくの中では完全に「美術」であった。にもかかわらず、当の本人が自らの仕事を工芸と呼んだのである。美術と工芸の間のヒエラルキーに対してぼくが偏見をもっているのかどうかは別として、それまでのぼくの信念はもろくも崩れ去った。そして、版画は単純に絵画技法の一種であり純正なアートであると思い込んでいたのは自分だけだったのかもしれない。学生時代の同級生たちや教授陣たちはそんなことは先刻承知で、ぼくのように美術と工芸の間のヒエラルキーなどをうじうじと考えずに、ただ、作りたいものを作っていただけなのかもしれない、と急に不安になったものだった。
 今は、版画が美術なのか工芸なのか実は大した問題ではないと、ほぼそう思っている。版画が美術品としてのアウラを放つとしても、それは、いわば去勢されたアウラであることも理解している。しかし、それとてこのメディアの価値を貶める問題ではないように思う。つまり、建築家が自らの力を誇示するために巨大な建築物がある一方で、平凡な家族が住むための住宅だってやはり必要であるのと同じことである。バウハウスやデ・スティルの作家たちは、住宅建築や小さな家具のデザインを舞台にさまざな冒険を行ったが、版画でだって、将来運が良ければ彼らのようなタレントが、ささやかだけどエキサイティングな冒険を繰り広げ、われわれに見せてくれるかもしれない。

 さて、CCGAでは6月28日からヘレン・フランケンサーラーの木版画による回顧展を開催する。フランケンサーラーは抽象表現主義第2世代の代表作家だが、版画もよくすることで、版画愛好家には知られた存在だ。日本では、10年ほど前に町田市立国際版画美術館でワシントン・ナショナル・ギャラリー企画の大規模な回顧展が開催された。
 今回はその木版画だけを集めた企画だが、彼女の木版画がまさに工芸品的な美しさをもつのだ。これを絵画として見るか、工芸として見るか、それは会場を訪れた人の自由に委ねられる。
 展覧会の企画は、アメリカの版画専門紙プリント・コレクターズ・ニューズレターの創刊者の一人で、ホイットニー美術館の版画部門キュレーターだった、ジュディス・ゴールドマンとフロリダのネイプルズ美術館が行った。アメリカの中小規模館を対象にした巡回展にCCGAが参加した格好だが、国内ではCCGAだけの開催である。

会期と内容
●ヘレン・フランケンサーラー木版画展
作家:ヘレン・フランケンサーラー
会期: 2003年6月28日(土)〜9月5日(金)
会場:CCGA現代グラフィックアートセンター(福島県須賀川市塩田宮田1)

休館日:月曜日(7月21日を除く)、7月22日
入場料:一般300円、学生200円
※小学生以下、65歳以上、各種障がい者手帳をお持ちの方は無料
主催:大日本印刷 CCGA現代グラフィックアートセンター
企画:ネイプルズ美術館(フロリダ)
問合せ先:CCGA現代グラフィックアートセンター Tel. 0248-79-4811
URL:http://www.dnp.co.jp/gallery/index.html(DNP Gallery)

[きど ひでゆき]

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