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ガラスのピラミッド in モエレ沼公園
札幌/吉崎元章[芸術の森美術館]

 
札幌/吉崎元章
東京/増田玲
高松/毛利義嗣

モエル沼公園01
モエル沼公園02
モエル沼公園03
  札幌を訪れたならば必ず訪れてほしい場所のひとつは、モエレ沼公園である。内陸部分約100 ha、周りを取り囲むモエレ沼の水面を合わせると189haという途方もないスケールで展開するこのアートスペースは、イサム・ノグチが長年温めてきた「大地を彫刻する」夢を最晩年に実現させた、集大成とも言える作品である。全体をひとつの彫刻とみなして山や森や池、遊具エリアなどを配したマスタープランを完成させてまもない1988年末に彼は他界するが、それをもとに翌年から本格的にスタートした造成工事は、現在も進められている。完成部分が徐々に一般にも公開され、休日には多くの人々が訪れる場所となっている。
 ここに7月20日、最も大きな屋内施設「ガラスのピラミッド」(愛称:HIDAMARI)がオープンしたというので、夏休みも終わりに近づいたよく晴れた日の午後に、久しぶりに訪れてみた。
 ガラス部は、高さ32.3m、一辺51.2m 。ガラスのピラミッドといえばルーヴル美術館入口が有名だが、モエレ沼公園のは純粋な四角錐ではなく、二つの面が途中から垂直に切り取られ、見る角度によって表情を変える。 そこに鉄筋コンクリート及び鉄筋造3階建の変形直方体が食い込むように組み合わされている。イサムはそれを「ふたつの合わせ」と表現していたというが、そこには東洋と西洋の狭間で制作し続けた彼の精神も見ることができよう。
 その内ではオープンを記念して、イサム・ノグチ展が8月31日まで開催されている。ブロンズやスティールを中心とした彫刻33点、ノグチの弟で写真家の野口ミチオの写真27点を展示。同じくイサム自身がその設計に関わった草月会館の建築空間「天国」で昨年開催された展覧会をベースとした内容である。光が降り注ぐ開放的なガラス部内のアトリウム、白壁に板張りのギャラリー内と異なる空間でゆったりと作品を見せている。
 この展覧会の実現には、市民の有志による「モエレ・ファン・クラブ」が大きく貢献している。市民、行政、利用者、専門家が一体となって公園の活用や運営をサポートしていくことを目指し、これまで市内中心部でシンポジウムなどを開催してきた。このガラスのピラミッドの独創的な空間の活用を含め、モエレ沼公園のもつ可能性の重要なカギを握る組織であり、今後の展開が楽しみである。
 また、ガラスのピラミッド内には、有名なフランス料理店がレストランを経営しており、本格的なランチやディナーを味わえるのも大いに魅力である。テイクアウトのランチボックスのコーナーもうれしい。
 ガラスのピラミッドの屋上階展望回廊から公園を望んでみた。のびのびとしていながら研ぎ澄まされた空間のなかで、人々が芝生でくつろぎ、子どもたちが駆け回る光景を見て、札幌市はとてつもないものを造ったものだとつくづくと思った。滑り台やブランコなどの遊具だけではなく、浅いプール、すり鉢状の芝地、霧が吹き上がる広場など、子どもたちの心を刺激する心憎い場所が散りばめられ、いたるところが遊び場と化している。多くの人が集い、歓声が響く今の公園の姿をイサム・ノグチが見たならば、どれほど喜ぶことであろうか。昨年の「グッドデザイン大賞」 を受賞したのも大いにうなずける。
 公園全体の完成まで、残すは高さ50メートルの「モエレ山」と数十メートルの高さまで吹き上がるという中央噴水。2004年秋の完成に向け、国土地理院の地図に山として登録されることを目指して、「モエレ山」には土積みトラックが今日も行き交っている。


会期と内容
●ガラスのピラミッド(モエレ沼公園内)
開館時間:9:00〜21:00
住所:札幌市東区丘珠町559-1
問合せ先:Tel.011-790-1231(財団法人札幌市公園緑化協会モエレ沼公園) 
URL:http://www.sapporo-park.or.jp/moere/

  
学芸員レポート

札幌・芸術の森美術館
 
阿部典英展
阿部典英展チラシ
9月7日から芸術の森美術館で「阿部典英展」を開催する。それに先立ち8月12日に、美術館の人工池に彼の最新作《ネエ ダンナサン あるいは 彼方から》を設置した。図録用の写真撮影のためであったが、PRを兼ねてそのまま展示している。夏休み中で多くの入館者が行き交うなか、阿部の作品をこれまで見たことがない人々の新鮮な反応を見るのも楽しい。クラゲ、タコ、キノコ、『マトリックス』に出てくるヤツ…。多くの人が、思い思いに作品から想像したものを口にしていく。
 題名にある「ネエ ダンナサン」とは、彼が最近手がけているシリーズ名であり、見る人への呼びかけであるとともに、自分自身への問いでもあるだろう。そこには、さまざまな素材や技法で作品を展開してきた彼が、今一度自分の原点に立ち返ろうとする意志を見ることができる。
 先日、阿部典英が自らの原風景であると語る北海道後志管内島牧村を二人で訪れた。阿部は札幌生まれながら、小学校にあがる前から中学1年までの多感な時期をここで暮らしている。山が迫った海岸線に沿って家々が並ぶ細長いこの村で、出征した父を待ちながら母と兄弟五人が電気も水道もなく、わずかな平地でイモ畑を耕しながら細々と暮らした日々…。
 札幌から車で4時間。宮内温泉という山中のひなびた温泉に夜中に到着、翌日ゆかりの地を訪ね歩いた。彼が住んでいた家と目の前に広がる海以外は大きく様変わりしていたものの、ここはやはり阿部の造形と大きく関わる重要なものであったことを実感した。想像力を刺激する海岸線に並ぶ不思議な形をした岩々、色とりどりのさまざまな生物が棲む遠浅の磯。そこで毎日遊ぶなかで彼の自由で柔軟な造形感覚が育くまれていったにちがいない。
 阿部は、ほとんど独学で美術の道に入った。当初タブローを手がけていたが、1970年頃より立体作品に移行し、アルミニウム、メッキ、ウレタンなどを用いてユーモラスな作品を次々と発表。1980年代には砂澤ビッキに誘われ夏に道北の音威子府村で制作するようになり、木を主な素材とするようになった。以来、表面に黒鉛を塗った黒光りする作品、カラフルな彩色のレリーフ作品などを精力的に制作し続けている。
 今回の展覧会では、70年代以降の立体作品に焦点を当て、会場いっぱいに彼の作品を展開する。その物量はすさまじく、すでに集荷した作品で収蔵庫がいっぱいになっている。時に軽快に、時に強く心に訴える主張をもって、新しい「生命」の姿を形づくる彼の芸術にぜひ触れてもらいたい。

[よしざき もとあき]

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