2010年8月
長者町地区の展示の特徴のひとつに、夜間のみ鑑賞できる作品が3作品ありました。
今回は、志村信裕《ribbon》を中心にご紹介します。
志村さんは、下見に訪れてすぐ、この街の景観の特徴である庇をスクリーンに映像インスタレーションを設置するアイデアがあがりました。
長者町では、店先に置かれた商品や積み上げられた出荷物を日差しや雨から守るため庇が店舗ごとに取り付けられています。大きさや高さはバラバラで、景観としてはチグハグな印象です。
素材も調べてみると、プラスチックやトタンの波板、ターボリンkなどのビニール素材のものなど色や形も様々です。
アイデアはスムーズに決まりましたが、実際に展示するための場所と素材を探さなければなりません。
昼間には素材の調査、夜間には作品がどう見えるかどうかの検討を重ねます。街の中には、街灯や電飾看板、飲食店の店内の照明など映像作品の焦点をぼかす光があふれています。調査中の5月には空店舗でも、8月には飲食店が出店しているかもしれない、、駐車場には屋外用の大きなライトがあって、道路にも跳ね返る程の光があるなどなどありましたが、いろいろな条件をクリアできる庇が見つかりました。
スクリーンとなる材質はプラスチックの波板が選ばれました。
設置場所が決まると、志村さんは横浜のアトリエに戻り、映像のモチーフ選びや、庇の素材との相性の実験、映像の撮影、編集などの作業を行います。
室内であれば起こらない様々な問題もクリアしなくてはなりません。
屋上にプロジェクターを設置するため雨や台風、外気温などを防ぐためのカバーボックスの作成。
夜中に商店の中を通らずとも、スムーズに電源のON/OFFを行うための仕組みなど、問題はいくつもありましたが、多くの方のアドバイスや実験により、72日間、台風にも負けずに展示されました。
設置の様子を見学していた長者町町会長の計らいで、向いから夜道を明るく照らしていた街灯は期間中特別に消灯されました。
波板への投影と重なってリボンがゆらゆらと揺らめき、普段は人通りの少ない夜の長者町に、自然と人が集まる東屋のような空間がうまれました。
ビルの窓枠やラインに合わせてドローイングを描く映像が映し出され、踊るように変化する壁画。