こんにちは
今回、メインテーマである『現代のパトロン』のさわりについて書きたいと思います。
昨年のウェブサービスで特に目立っていたのが、共同購入型クーポンサービスです。たとえば「グルーポン」「ポンパレ」等、みなさんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。共同購入型クーポンサービスは、主に飲食店等、通常のクーポンよりもお得なクーポンを共同購入できるサービスです。飲食店側が通常の価格より割引率の高いクーポンを準備し、そのクーポンへ一定の購入者が集まったら、クーポン成立となります。たとえば中華料理屋さんが、通常¥5,000のコースが¥3,000になるクーポンを発行し、購入者が100人集まればクーポン成立(利用できる)、という感じです。
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このような、共同購入をはじめとした「一定数の(購入)意志が集まることで実現できるサービス」は昔からいくつかありました。
たとえば空想生活というサービスです。
空想生活では、まだ存在しない商品を商品化するサービスです。消費者が欲しいと思った商品のアイデアを空想生活へ投稿し、他の消費者からの応援をうけてアイデアをブラッシュアップしていきます。そして実現性等を考慮した上で、空想生活がメーカーに対して働きかけを行い、製品化につなげるというものです。空想生活の対象とするメーカーは家電や住宅設備、文具など多岐にわたりますが、メーカーを無印良品に特化した「空想無印」というサービスもあり、ここから「貼ったまま読める透明付箋紙」や「書き込めるメジャー」などが商品化されています。
また「復刊ドットコム」も似た仕組みです。
復刊ドットコムは、絶版となった本を有志が購入意志を示すことで、復刊につなげるサービスです。これは一度出版されていたものを対象にしてはいますが、いま手に入らないという点においては、存在しないモノを商品化させるサービスと言えるでしょう。書籍は物理的特性上、在庫数を保ちながら出版数を増やすことが難しいため、絶版になるものが増えるのは仕方がありません。しかし、その絶版対象となる本は出版社が決めるものの、売れることが見込め、損益分岐点を超えることがわかっているのならば、復刊する選択肢もありえます。
空想生活も復刊ドットコムも特徴的なのは、家電メーカーや出版社が売れるかどうかわからないリスクをとって何かを作ったり、出版したりするのではなく、あらかじめ一定数以上のユーザーからの購入意志を集めることによって商品化のリスクを減らしているところです。
そしてあらかじめ意志を確認するという点で、共同購入型クーポンサービスも同様の仕組みなのですが、すこし違うところはその意志の表明にお金を支払うところです。このタイプのサービスはクーポン購入時にお金を支払い、一定数の数が集まらない場合は返金されるようになっています。
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一方アメリカで「Kickstarter」というサービスが2009年に登場しました。これもまた「一定数の(購入)意志が集まることで実現できるサービス」です。
“一言でいうと、クリエーターの活動のための資金調達を支援するサービスだ。「資金調達」と書いたが、Kickstarter が提供するのは、投資や融資を多くの人から募るサービスではない。ホームページには、「新しい形の商取引や後援 (new form of commerce and patronage)」を提供するサービスだと記されている。” [参考]
Kickstarterでは、
・プロジェクト管理者が、どのようなプロジェクトにいくら必要かを登録。またプロジェクトへの出資枠の設定と、その見返りを設定。
・出資者は自分が出資したい枠に応じて出資を行う。
・プロジェクトの必要額が期間内に集まればゴール、集まらなければそれまでの出資者に返金
という流れで資金調達が行われ、ゴールしたプロジェクトは、その後出資者へプロジェクトの進捗報告等をこのサービス上で行うことができます。
2010年、アルスエレクトロニカでゴールデンニカを受賞した「EyeWriter」のプロジェクト資金もこのKickstarterで募集していました。EyeWriterは、低コストの視標追跡器具と自作ソフトウェアを制作するプロジェクトです。アメリカのグラフィティライターTempt1が2003年にALS(筋萎縮性側索硬化症)という病のため、目以外の体の自由を失われてしまいました。EyeWriterは、このTempt1がもう一度グラフィティを描けるようにアイトラッキングツールの開発を行い、その一式のデバイスの作り方、ソフトウェアをオープンソースで公開するプロジェクトです。[参考]
今回のプロジェクトでは、Kickstarter上で、5ドルでTEMPT1のスクリーンセーバー、10ドルでEyeWriterで制作したTEMPT1のフォント、25ドルでポスター、35ドルでTシャツなどを出資枠の見返りとして設定し、396人の出資者から$17,996を集めゴールとなりました。
Kickstarterの特徴的な要素として「All-or-nothing」型の資金調達が挙げられます。これはプロジェクトの目標金額に達したときにはじめて出資者へ課金するというものです。中途半端な調達状況(50万円のプロジェクトで20万円しか集まっていない等)でプロジェクトが進行するのは、プロジェクト管理者側にとっても、出資者側にとってもリスクになります。これを防ぐために目標金額に達してから課金という形態をとることで、出資者に出資しやすい状況を提供しているのです。すこし技術的なお話をすると、この課金方法はすこし特殊で、Kickstarterはこれを実現するためにAmazon Flexible Payments Service(Amazon FPS)を利用しています。Amazon FPSはインターフェイスを英語でしか提供しておらず、日本の決済サービスで同じことをやろうとするとおそらく難しかったと思うのですが、最近になってオンライン決済サービスであるPaypalのAdaptive Paymentsというサービスでようやく実現できるようになりました。
この決済手段の充実が直接の原因かどうかわかりませんが、今年日本でもKickstarterのようなサービスがいくつか登場しています。次回は日本におけるパトロン系サービスについて見ていきたいと思います。
[...] 前回は昨年参入者が多かった共同購入型サービスをはじめ、「一定数の(購入)意志が集まることで実現できるサービス」についてご紹介しました。その中でも数年前から注目されているクリエイターのための資金調達サービスKICKSTARTERについて触れましたが、日本でも、これと同様のパトロン系サービスが、今年に入ってリリース(や、リリース予定の発表)されています。今回は簡単にこれらのサービスについて見ていきたいと思います。 [...]
ピンバック by 日本のパトロン系サービスにはどんなものがあるか « artscape blog — 2011年5月23日 @ 01:12
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ピンバック by artscape blog — 2011年5月30日 @ 02:36