東日本大震災と岡本太郎生誕100年(3)

ではその当時の「芸術家の責任」の思想的な背景はどのようなものだったのでしょうか。

戦前の日本には知識人というものがいて、かなりキリスト教思想の影響がありました。中でも、自然法をベースとしたカトリック系人文学である新トマス主義(ネオ・トミズムとも呼ばれます)は、第2次大戦の前後のフランスを中心とした欧州、そしてアメリカ、また日本にも影響を与えています。ここで、1948年に採択された「世界人権宣言」をはじめとする戦後の国際的な文教政策にも大きな影響を与えた「ジャック・マリタン」の存在を取り上げたいと思います。

マリタンは、デカルト、ルソーらの近代思想、そして理性至上主義の近代思想に端を発する全体主義をことごとく批判し、神中心のヒューマニズムである「全きヒューマニズム」こそが人間の尊厳と人間の諸権利に対する生き生きとした自覚を喚起しうると説きました。また反共産主義的な立場をとったことでも知られます。マリタンの仕事は、「コミュニタリアン・リベラル」ないしは「リベラル・コミュニタリアン」ということもできますし、キリスト教的視点に基づき、公共善と区別した政治社会の共通善を追求した民主主義者であったとも評価されています。マリタンは1920年代に既にフランスの第一線のカトリック知識人らが作る新スコラ哲学サークルの中心人物になっており、その影響力、名声は大きなものとなりました。日本でも、戦後に文部科学大臣となり日本国憲法に署名し、また「新憲法と文化」を著して「文化国家」について論じた法哲学者の田中耕太郎、あるいは民法学の星野英一、作家の遠藤周作らに影響を与えています。

「世界人権宣言」の起草にマリタンは中心的に関わった一人と言われています。世界人権宣言の条文をいくつか見てみましょう。

第18条

すべて人は、思想、良心及び宗教の自由を享有する権利を有する。この権利は、宗教又は信念を変更する自由並びに単独で又は他の者と共同して、公的に又は私的に、布教、行事、礼拝及び儀式によって宗教又は信念を表明する自由を含む。

第19条

すべて人は、意見及び表現の自由を享有する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。

第27条

  1. すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する。
  2. すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する。

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