『S,M,L,XL』はどのような本か。

今回は、『S,M,L,XL』とはどのような本か、ご紹介したいと思います。

作者のレム・コールハースは建築家ですが、建築関係者でなくとも、アートやファッションに詳しい方はそれと知らずに彼を見ていたり、彼の建築を体験しているかもしれません。

コールハースのポートレート

コールハースのポートレート

右はヴォルフガング・ティルマンスの写真集『ポートレート』(2001)、表紙の男がコールハースです。左は『L’UOMO VOGUE』の2008年4月号。表紙のプラダのスーツを着た男がコールハースであることは、もうおわかりでしょう。彼はブランド・コンサルティングから NYとLAの店舗設計、ファッション・ショーのキャット・ウォークのデザインからルックブックの作成まで、幅広くプラダと関わっています。

雑談はこのくらいにして、本題に入ります。

彼の書いた『S,M,L,XL』とはどのような本か。本を裏返してみましょう。

『S,M,L,XL』の裏表紙

『S,M,L,XL』の裏表紙

「このマッシブな本は、建築についての小説だ。(…) 本のタイトルであるSmall, Medium, Large, Extra-Largeは、本のフレームワークでもある。プロジェクトとエッセイは、スケールに従って並べられている。(…)」

『S,M,L,XL』(1995年)は、コールハースとOMAの20年間の活動の集大成と言えます。デザインはブルース・マウ。一般的な建築理論書や作品集と異なり、ドローイングや模型の写真、エッセイ、日記、旅行記、漫画、俳句などなど、形式も内容も雑多なコンテンツから本書は構成されます。それらが「スケールに従って」、つまり小さいものから大きなものへと並べられていることが最大の特徴と言えるでしょう。機能や形態にかかわらず、すべてのものを単純に「スケールに従って」分類した結果、直接の関係を持たない内容が隣り合うという事態が生じます。モダニズムの機能主義的な秩序とは一線を画し、この本はそれ自体で、混交と過密、近接と衝突という、『錯乱のニューヨーク』(1978年)から現在まで持続するコールハースの問題系を体現しているのです。

また、この本が「小説」であるという宣言も、とても興味深く思います。現実に竣工した建物も、コールハースの夢想も、すべて「小説」という枠組みにとけ込む。そこではフィクションとノン・フィクションの境界が曖昧になります。「建築」とは、現実に「建てられたもの」だけではありません。コンペの落選案や夢想のスケッチなど、「建てられることがなかったもの」が大きな影響を与えることもあります。「小説」であるという視点、現実と非現実を分け隔てなく扱う視点が、『S,M,L,XL』を読むためには重要であるように思います。

それでは次回から、本を読み始めます。

P.S.
『S,M,L,XL』に収められたテキストの一部は『建築文化』という雑誌の1995年1月号において和訳されています。そこでは「スケール」ではなく「アルファベット」順にテーマが並べられています。なかなか手に入りにくい本ですが、大学図書館などで読むことができます。

ブロガー:岩元真明
2011年6月12日 / 22:10

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