tightrope and disaster ④wah documentの場合(前半)

wah document(ワウドキュメント。以下、「ワウ」と表記)の活動を知ったのは、昨年の10月でした。埼玉県北本市の「北本ビタミン」というプロジェクトで、彼らがプロデュースした「この家、持ち上げます。」という企画。2階建ての一軒家(推定15トン)を、約200人の手で持ち上げるという。何てバカバカしいことを考えるヤツがいるんだろう、と。そして、あまりのバカバカしさに居ても立ってもいられず、軍手を持って北本まで足を運び、ヘルメットをかぶって家を持ち上げた私がいました。そして、持ち上がったときのあの感動を、今でも忘れることができません。

さて、この企画をプロデュースしたワウとは、一体何者なんでしょうか。南川憲二氏と増井宏文氏の二人が中心となって企画・運営しているとのこと。ワウのホームページには、こう書かれています。

ワウとは、各地へ赴き、そこで一般募集した参加者とその場で出し合ったアイデア、あるいはその街で集めたアイデアを即興的に実行する一過性の参加型表現集団である。ワウドキュメントは、ワウの活動の運営と記録を行う活動体である。

この説明は一般的な「アーティスト」の定義を覆すもので、特定の作者がアイデアやインスピレーションを作品化して社会に提示するものではなく、“誰か”(多くの場合は一般市民)のアイデアやインスピレーションを実行するということ、その運営と記録が、彼らの活動です。ですから、彼らを“アーティスト”と言ってもいいのかどうかも、定かではありません。むしろ“アーティスト”とは誰なのか、“アート”とは何か、について疑問を提起することが、彼らの思惑のようにも見えますし、私は、まんまとその思惑にはまっているわけです。
そのワウが、3月11日以降に発表した活動が、3月23日に京都芸術センターで行われた「てんとうむしのつなわたり」展です。この企画は、様々なディスカッションを経て京都芸術センターのボランティアスタッフたちの「京都芸術センターで実現したいアイデアを出して実現する」というもの。ディスカッションの様子を、彼らのブログから引用させていただきます。

そして、アイデアミーティングを重ね、アイデアを決定する会議のまさに終盤、危険性が懸念されそれほど人気がなかったアイデア「つなわたり」が、ボランティアさんの一人の主婦の熱弁(机をたたきながら「これをしないで、何がアートだ!」)により一気に拍手が上がり、他に年配方や若者に人気のあったと同等の価値が見いだされた。僕はその瞬間、まだwahが続けられると悟って涙が流れた。

しかし、この「つなわたり」に対しても大震災の影響があったという。展覧会開始の3日前、「安全確保が確実にできるとは言えない」という理由で、彼らに芸術センターから「取りやめ」の意向を伝えられる。

その夜、憤りをおさえながら、僕は相方の増井に質問を突きつけた。「お前は何でこんなに大変な時に、税金を使って表現したいと思っているのか。」「これをやめて、今もなお人の命が亡くなっている被災地にお金を送った方が世の為ではないか」増井は「そう言われるとわからない。けど俺はこんな時に無料で美術館が開放されていたらいいと思う。」そのこたえにしばらく戸惑ったが、その応えを元にを話を極論づけてゆくことができた。「ここが仮に被災地だったとしたら俺たちは何をやるべきか?」と考えた。二人とも結論は「つなわたり」だった。

粘り強い協議の結果、彼らは、綱渡り師を招いてつなわたりを実現させましたのですが、私は、実現に至るまでのプロセスにこそ、彼らの活動の本質が見える気がすると同時に、彼らなりに震災と向き合った末に生み出された「表現」なのだと思います。
そしてワウは、京都芸術センターのあと、東北に向かいました。(続く)

ブロガー:大澤寅雄
2011年7月30日 / 08:31

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