フォーカス

「レオナール・フジタ──私のパリ、私のアトリエ」展 縮小された室内空間で上演されるスペクタクル

小澤京子

2011年09月15日号

 レオナール・フジタ(藤田嗣治)といえば、まず付される形容は「パリが認めた日本人」といったものであるだろう。あるいはまた、裸婦や猫たちを甘美な柔和さで描いた画家として、もしくは戦争画を手掛け、それゆえに戦後には捨郷者とならざるをえなかったラ・ボエームの人として──これらのクリーシェは、あたかも額縁のようにフジタとその作品の周りを取り囲んでいる。
 ポーラ美術館で現在開催中の「レオナール・フジタ──私のパリ、私のアトリエ」展は、このような紋切り型の形容に回収されない、未知のままに残されていたフジタの側面に光をあてた展覧会である。本展の大きな特色は、今年になって新たに収蔵された106点を含む計172点の、日本最大のフジタ・コレクションから構成されている点にある。展覧会は年代に沿った三つのテーマから構成されている。エコール・ド・パリ時代における、フジタ特有の画風やモティーフと、彼が親しく交流した同時代のモンパルナスの画家たち──モディリアーニ、ピカソ、マリー・ローランサンら──とを比較対照する第一部。戦後、主に日本のアトリエで生み出された職人アルチザン的手仕事を含む作品群を提示し、併せて有名な「乳白色」の謎に肉薄した第二部。そして「小さな職人たち」シリーズや、そのプロトタイプと目される子どもをモティーフとした小品を並べた第三部である。ここでは、所在が公にされてこなかった作品群を含む新収蔵品が展示の大部分を占めている。2000年代以降、フジタの回顧展は度々開催されてきたが、この圧倒的なヴォリュームを持つ第三部によって、本展は従来のフジタ展とは異なる視点を提供することに成功している。


レオナール・フジタ(藤田嗣治)《姉妹》1950年 油彩/カンヴァス
© ADAGP, Paris&SPDA, Tokyo, 2011