2020年01月15日号
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ウォーホルと日本──「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」レビュー

暮沢剛巳(美術批評、東京工科大学デザイン学部准教授)

2014年03月15日号

 2月1日より森美術館で「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」展が始まった。日本国内で開催されるものとしては、おそらく2000年に東急文化村 The Museumなどを巡回した「アンディ・ウォーホル」展以来の大規模な個展であり、会場はウォーホルの作品に初めて接したと思しき多くの若い観客で賑わいを見せていた。早速多くのメディアでも、「ポップ・アートのスーパースター」「実験映画の旗手」「20世紀の消費社会の鏡」などの見出しで紹介されている。確かに、「キャンベル・スープ」「ブリロ・ボックス」「マリリン」「エンパイア」といった代表作を一通り見られる本展の展示は、そうした見出しを裏切るものではない。しかし一方で、以前からウォーホルに接していたファンにとっては、そうした切り口がやや食傷気味であり、従来とは違うウォーホル像に出会いたいという期待を抱いていたことも否定できまい。かくいう私もそうしたひとりだったのだが、本展の展示にウォーホルと日本の関係を考えるヒントが潜んでいたのは嬉しい偶然だった。


アンディ・ウォーホル《自画像》1986年
麻にアクリル、シルクスクリーン・インク 203.2 x 193 cm
アンディ・ウォーホル美術館蔵
© 2014 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights Society (ARS), New York

 「キャンベル・スープ」の精巧な絵画作品によって、商業デザイナーだったウォーホルがアーティストへ転身するのは1962年のこと。その華麗な活躍は東野芳明らによって日本にも紹介され、多くの若者から熱狂的に支持された。意外だったのが、ウォーホルが1970年の大阪万博に参加していたというエピソードである。ウォーホルはアメリカ館に「レイン・マシン」という作品を出品する。ひなぎくの花の写真が桝目状に並んだ壁の前に、巨大な滝の水が流れる大作だ。この作品は、美術と技術の融合を目指した「アート&テクノロジー」というプログラムの一環として制作されたものだが、アメリカ館は日本館、ソ連館と並ぶ人気パヴィリオンであり、ウォーホル以外にもロバート・ラウシェンバーグやドナルド・ジャッドといった錚々たる顔ぶれが参加していたにもかかわらず、関心が「月の石」に集中したこともあり、会期中はほとんど話題にならなかったという。このことは、私自身初めて知ったこの事実は、万博と現代美術のけっして幸福とはいえない関係を考えるうえでも大いに示唆に富んでいる。
 1971年、日本では初めてとなるウォーホルの個展が渋谷の西武百貨店で開催される。このときには実現しなかったが、次いで1974年には東京と神戸の大丸百貨店で「アンディ・ウォーホル大回顧展」が開催されたとき、ウォーホルは来日を果たす。「キャンベル・スープ」「マリリン」「毛沢東」などのシルクスクリーン作品の展示や、長編映画「エンパイア」の8時間一挙上映など、この展覧会のプログラムは40年経った現在でも一般的なウォーホル像とほぼ一致していると言っていいが、今回の森美術館における「タイム・カプセル」の展示は、当時のことを回想するうえでも貴重である。


アンディ・ウォーホル《キャンベル・スープⅠ:チキン・ヌードル》 1968年
紙にスクリーンプリント 88.9 x 58.7 cm
アンディ・ウォーホル美術館蔵
© 2014 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights
Society (ARS), New York


アンディ・ウォーホル《マリリン・モンロー(マリリン)》 1967年
紙にスクリーンプリント 91.4 x 91.4 cm
アンディ・ウォーホル美術館蔵
© 2014 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights
Society (ARS), New York Marilyn Monroe™; Rights of Publicity and Persona
Rights: The Estate of Marilyn Monroe, LLC marilynmonroe.com

 生前のウォーホルは身の回りの雑多の品をなかなか捨てられない性質だったようで、来日した年に当たる1974年以降は、それらの品を段ボールに箱詰めし、それを「タイム・カプセル」と称するようになった。その箱詰め作業は死の直前まで続けられ、現在ピッツバーグのアンディ・ウォーホル美術館には600以上もの「タイム・カプセル」が保管されているという。今回はそのうち、日本滞在時に収集したモノを詰めた「タイム・カプセル102」などが展示されているが、カプセルに封入されていた浮世絵、相撲や野球を紹介したグラフ誌、週刊誌、能や歌舞伎の入門書、展覧会のプロデューサーをつとめた安斎慶子から贈られた財布といったその中身に、これといった主張や体系性は認められない。もっとも、じつはこれは「タイム・カプセル」全体に共通する特徴であり、ウォーホルは段ボールが満杯になるとろくに中身も確認せずに日付を書いて封をしていたという。ウォーホルの作品はしばしばクールな表面とその背後の無内容の対照が強調されるが、この「タイム・カプセル」も即物的な性格もまたそれと密接な対応関係にあると言えるだろう。
 この展覧会以後、ウォーホルと日本との関係はもっぱらビジネスを介してのものとなる。例えば、ヴァレリー・ソラナスの銃撃による暗殺未遂事件以来、出入り自由だった「ファクトリー」を閉鎖してセキュリティの厳しい「オフィス」を拠点とするようになったウォーホルは、ここで多くのセレブリティからの注文肖像画を制作したのだが、その中にはポップ・アートの世界的コレクターであるキミコ・パワーズや、当時YMOや映画「戦場のメリー・クリスマス」などの活躍によって海外でも名を知られるようになっていた坂本龍一も含まれていた。70年代後半以降のウォーホルの活動は、以前にもまして彼自身の出自である商業美術の手法を積極的に取り入れるようになった印象を受ける。
 また1983年には、ウォーホルはTDKのビデオカセットのテレビCMに出演する。展覧会サブタイトルの「永遠の15分」は人は誰でも15分間は有名人になれるというウォーホルの言葉にちなんでいるが、画面の中のウォーホルは、テレビCMに出演すれば15分どころか15秒で有名になれてしまうとでも言いたげだ。私事で恐縮だが、現代美術についてほとんど何も知らなかった当時の私が、初めてウォーホルの名を知ったのがこのCMによってだった。ちなみに同年にニッカウヰスキーのCMに出演し、翌年の個展によって日本でもその名を知られるようになったアーティストがあのヨーゼフ・ボイスである。作風やコンセプトなど、アーティストとしては対極に位置するように見える両者だが、最近では資本主義という観点から両者の類似に注目する議論も為されるようになった。そういえば、残念ながら本展には出品されていないが、ウォーホルはボイスの肖像画も制作しており、生前一切親交のなかったボイスの活動にも大いに注目していたことがわかる。


アンディ・ウォーホル《牛の壁紙(黄色にピンク)》 1966年(再プリント1994年)
壁紙にスクリーンプリント サイズ可変
アンディ・ウォーホル美術館蔵
© 2014 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights
Society (ARS), New York


アンディ・ウォーホル《$ (9)》 1982年
レノックス・ミュージアム・ボードにスクリーンプリント 101.6 x 81.3 cm
アンディ・ウォーホル美術館蔵
© 2014 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights
Society (ARS), New York

 ウォーホルは1987年に亡くなるが、日本ではその後も数度に渡って個展や映画祭が開催され、またカタログレゾネも出版されている。断片的な作品の紹介にいたっては数知れないし、ファクトリーを訪ねたことのある横尾忠則や一時期自らのスタジオをファクトリーと称していた村上隆など、影響を受けたアーティストも少なくなく、死して四半世紀経った現在もなお「ポップ・アートのスーパースター」として君臨しているのは確かなようだ。一方のウォーホルにとって、まだ商業デザイナーだった1956年の初来日以来さまざまな関係があったにもかかわらず、日本や日本文化に対して積極的な関心を抱くことはついになく(強いて挙げるなら、「自分はアメリカよりも日本のテレビCMのほうが好きだ」とCM出演のオファーを快諾したことくらいだろうか)、その視線は冷淡なものであり続けた。とはいえ、太平洋戦争や朝鮮戦争への従軍経験もなく、作風もエキゾチズムと一切無縁だったことを考えれば、ウォーホルの冷淡さはむしろ当然のことでもある。クールな表面を特徴とするウォーホルの作品はしばしば鏡にたとえられるが、その鏡に映し出された「日本」は何とも素っ気ないものであったに違いないし、視点を逆にすれば、その素っ気なさゆえにウォーホルは日本に対しても従来のクールな冴えを失わなかったとも言えるのである。日本のアートファンにとって、ウォーホルは今後もクールなポップ・アイコンであり続けるに違いない。

森美術館10周年記念展「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」

会期:2014年2月1日(土)〜5月6日(火・休)
会場:森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F/Tel. 03-5777-8600

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