フォーカス
ファッションブランドのアートコレクション──パリ、ヴェネツィア、ミラノ
木村浩之
2015年07月01日号
エルメス
プラダの4倍以上の歴史のあるエルメスも一族による経営を保っている。アーティスティック・ディレクターであるピエール・アレクシス・デュマも一族の出身だ。
エルメス財団は比較的新しく2007年の創立で、クリエイティブ部門と職人技術部門の2ジャンルを中心に、現在世界に6カ所の展示空間を運営している。ブリュッセル(ラ・ヴェリエール)、ニューヨーク(ザ・ギャラリー)、ソウル(アトリエ・エルメス)、シンガポール(ザ・サードフロア)、東京(ル・フォーラム)とベルン(TH13)だ。どれも空間の規模は大きくないが、あわせて年に20本もの企画展を、多くは入場料を取らずに開催している。
銀座のメゾン・エルメスでもショーウィンドウをアーティストやデザイナーに依頼する「ウィンドウ」シリーズもよく知られている。
コラボレーション商品としては「エルメス・エディター」シリーズを出している。ダニエル・ビュラン、フリオ・ル・パルクなど現在までに4人のアーティストとのコラボレーションを行なっている。
杉本博司のスカーフ(2012)は白黒写真で有名な杉本博司としては例外的なカラーポラロイド写真をスカーフ(カレ)にしたものだ。グラデーションをつけた彩色技術を新たに開発してまで実現させたプロジェクトで、単にモチーフとして借用する以上のコミットメントがブランド側にあった。またエディションでの販売となったので、商品というよりは若干作品に近いかもしれない。ただ、価格帯としては商品に近いものだった。
カルティエ
パリのファッション関連ブランドの展示施設と言えば、従来カルティエ財団(カルティエ現代美術財団)がよく知られていた。1984年に設立されており、この手のものとしてはもっとも古い。例えば上記ルイ・ヴィトン財団の設立2006年、エルメス財団(2007)に20年以上、プラダ財団(1993)に約10年先立っている(ちなみに資生堂アートハウスは1978年の創立)。2006年には東京都現代美術館にて「カルティエ現代美術財団コレクション」展が開催されており、コレクション作品も広く知られることとなったが、カルティエ財団と言えば企画展のほうが広く認識されているだろう。必ずしも狭義のアートに的は絞っておらず、デヴィッド・リンチ展やグラフィティ展なども開催している。日本関連も多く、日本の漫画展、北野武展、杉本博司展、束芋展、森山大道展などが開催されている。
スペースはジャン・ヌーヴェル設計の本社ビルの1Fと地下展示室からなる。パリ市内ながらも木々に囲まれた開放感ある建築コンセプトとなっており、1Fのスペースも全面ガラス張りという典型的展示スペースとは対照的なつくりになっている。総合ディレクターは1994年以来エルベ・シャンデス。
トラサルディ
2003年創立のニコラ・トラサルディ財団は、固定の展示スペースは持たず、企画展示ごとに適したスペースをミラノ市内に借りて展覧会をホストしている。現在までにピピロッティ・リスト展(2011)、ポール・マッカーシー展(2010)、タシタ・ディーン展(2009)、ティノ・セーガル展(2008)、フィッシュリ&ヴァイス展(2008)、マーティン・クリード展(2006)、マウリッツィオ・カッテラン展(2004)など精力的に行なっている。
アーティスティック・ディレクターは2013年のヴェネツィア・ビエンナーレや第8回光州ビエンナーレのディレクターであったマッシミリアーノ・ジオーニが財団創立時より務めている。