2021年06月15日号
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ファッションのプラットフォーム・クリティーク試論──衣服の表層から循環基盤のメタデザインへ

川崎和也(Synflux代表/スペキュラティヴ・ファッションデザイナー)

2021年05月15日号

どんな材料とエネルギーを使って、誰が、どのような環境で衣類をつくっているのか。環境危機が緊迫しているなかで、サステイナブルファッションは多様な選択肢のひとつから、ファッション業界のみならず、人類が生き残るための戦略へと、その重要性がますます強く意識されている。
バイオテクノロジーやデジタルファブリケーションを活用したスペキュラティヴ・ファッションデザイナーであり、デザインリサーチャーでもある川崎和也氏に、循環型社会を目指すファッションデザインの新しいフェーズについてご寄稿いただいた。(artscape編集部)


The Fabricantによるバーチャル空間でしか存在し得ないバーチャル衣服


ファッション・エコロジカル・ポリティクス──環境危機をめぐる分断と連帯

ファッションが消費社会の豊かさを象徴する文化的触媒であるという事実を素直に言祝ぐ時代があった──と、もう過去形で語っても許されるのかもしれない。2015年に公開された、映画『ザ・トゥルー・コスト ファストファッション 真の代償』★1においてグローバルに拡張された複雑な大量生産構造が孕む倫理的・環境破壊的諸問題が暴かれてからというものの、消費を加速させるスペクタクルとしてのファッションはその存在意義を問い直す必要性に迫られている。

事実、従来の産業システムを維持した場合、自然環境に対する負荷をますます増大させてしまうことを類推するためのエビデンスは枚挙にいとまがない。着る人の日常を彩る役目を終え、廃棄される衣類の年間総量は世界で92万トンを超え、約80パーセントが再利用されることなく、焼却あるいは埋め立て処分される運命にある。そして、過剰な廃棄が絶えず生み出されているにも関わらず、アフリカや東南アジアの人口増加を背景とした需要増加は年々増加傾向を続け、2015年のマーケットサイズと比較して2030年には約60パーセントその規模を拡大すると予測されている★2

生産と消費のアンバランスな関係性を孕む「ファッション・パラドックス」と呼ばれる状況を目の前にして、衣服の生産者や労働者、使用者による問題提起的活動が活発化している。人類の絶滅と地球の生態システムの危機に対する世界的な緊急の政策を要求する抗議運動 Extinction Rebellion(以下、XR)が主導する「ボイコット・ファッション」は2019年を象徴する出来事だった。XRは、グレタ・トゥーンベリら環境活動家、ノーム・チョムスキーをはじめとした知識人や環境生態学者を巻き込んだ市民ネットワークだが、彼/彼女らが最大の標的にしたのはロンドンのファッションシーンである。

「ファッションよ安らかに眠れ」と書かれた看板を掲げ、漆黒の棺桶を担いでロンドン・ファッションウィーク中止を叫びながらストリートを闊歩する──このいささか攻撃的で、センセーショナルなアクションに、サステイナブルファッションの象徴的アイコンの一人であるステラ・マッカートニーが賛同の意を示し、『The New York Times』★3をはじめとしたメディアに特集されたこともきっかけとなり、XRの問題提起はより広く世界に知られることとなった。ボイコット・ファッションは「XR FASHION ACTION」という名で今も積極的活動を継続している。



Red Rebel Brigade Funeral Procession from Parliament Square to Hyde Park(ロンドン、2019年4月21日撮影)[Photo: Richard Kaby, Attribution-NonCommercial 2.0 Generic (CC BY-NC 2.0) https://www.flickr.com/photos/kabyric/49459342803/in/album-72157712886498876/]


一般市民間にも広がりつつあるこうした切迫した危機感は、国際政治の政策意思決定者にも少なからず行動を促し始めている。同年、フランスで開催されたG7サミットにおいては、主要ファッション企業32社が環境負荷削減目標を共有することを目的として署名した「ファッション・パクト(協定)」が締結された。行政、政治家、ラグジュアリーからマスファッションまで多様な企業を巻き込んだ協働関係を育んでもいるのだ★4

今まさにファッションシーンを舞台に起こっているこのような分断と連帯の兆しは、ファッションに関わる諸問題のひとつとして環境危機があるのではなく、ファッションの諸問題はすべて環境危機に関係するという転回を示唆している。ともすれば、作らないことが正義とされかねない現在、ファッションは自らをいかにして変容するべきか? そのとき、どのような実践と創造性が要請されるだろうか?

ファッション・プラットフォームの胎動──衣服の生成、分解、再使用を支援する

ファッションが以前よりも増してエコロジカルな危機への応答を要請されるようになった2015年以降のディケイドにおいて、ますます存在感を増すのは「ファッション・プラットフォーム」とも呼ぶべき組織体の実践だろう。

ここでいう、ファッション・プラットフォームとは何か? ──衣服の意匠や表層のみならず、マテリアル、データ、サービス、コンテクストといった、循環するデザインのための創造基盤をデザインする組織体。ファッション・プラットフォームは従来のデザイン活動にとどまらず、情報工学や材料科学、サービスデザイン、デザインストラテジーなど、多様な専門性を統合し、さまざまな利害関係者と共に衣服制作の方法や技術などの「しくみ」を実装することを目的としている点で、従来のファッションブランドやアトリエとは活動の質を異にしている。

近年とりわけ活動が活性化しているのは、生命工学を活用したマテリアル開発だ。生命工学や素材科学をバックグラウンドにもつ科学者を中心に立ち上げられたいくつかのマテリアルプラットフォームが、キノコの菌糸体やバクテリア、遺伝子組み換えがなされたタンパク質を用いて、衣服に加工した後も分解・循環可能でアニマルフリーな素材を発明し、ファッションブランドとの共同商品化を実際に成し遂げている。エルメスと提携してキノコを原料とした人工レザーを用いたバッグを実装したMycoWorksや、アディダスと共同でキノコレザー製のスタンスミスを開発したBolt Threadsが特に注目を集めている。



Bolt ThreadsとAdidasによるキノコの菌糸体を原料に開発されたバイオ素材MYLO™から作られたADIDAS STAN SMITH MYLO™


ブラックボックス化された大量生産プロセスの透明性を高めるためのデジタルテクノロジー活用も促進され始めている。衣服に埋め込まれたマイクロチップを読み取ると、素材、原産地、価格といった服の出生証明書を明らかにできるCircular IDをH&Mなどと開発するEONはトレーサビリティの問題に取り組むプラットフォームとして特筆に値する。あるいは、デニムパンツのサイズフィットと受注生産を独自の3Dスキャンシステムを通して実現することで、適量生産を実現しようとするunspunもデザインプロセスが最適化され、カスタマイズ可能な製品を直接ユーザに届けることを目指した新しいサービスプラットフォームである。



EONによるCircular IDのコンセプトダイアグラム(https://www.eongroup.co/circularid/より)




3Dスキャニングによってサイズフィットと受注生産前提のunspunによるジーンズ [Courtesy of unspun]


モノの消費としてのファッションを一切排除し、ソーシャルネットワーク上でのアピアランスに特化したデジタルデータとしての服を体験するためのサービスも実装されつつある。モノの消費を抑えることで自然資源へのダメージを削減できるという意味で、エコロジカルな影響を与えるのではないかという期待が集まっているのだ。実際、データの衣服1着が100万円で落札されたことで有名になったThe Fabricantは、CLO3Dなどのアパレル3Dソフトウェアを用いてデザインされた衣服を独自のウェブサイトで販売している。こうした「バーチャルファッション」とも呼ばれる新たな領域は、ブロックチェーン技術などと連動するNFTあるいはクリプトアートのジャンルと融合しながら、データ=複製可能といった今までの認識を超え、暗号的信頼を携えたデジタル資産としての価値を持っていくだろう。アイター・スロープがNifty GatewayとのパートナーシップでリリースしたAnatomylandなど、NFTマーケットにおける取り組みも見え始めている★5

他方で、ブロックチェーンや暗号通貨の取引に伴う膨大な計算がコンピュータの消費電力に負荷をかけ、カーボンフットプリント排出の原因になりうるというネガティブな指摘もなされているのも事実だ★6。しかし、カーボンフットプリント計算の透明性と計算効率性の向上などによる対策も同時に始まっている。



The Fabricantによるバーチャル衣服 Iridescence




いち早く、バーチャル衣服をNFTマーケットにドロップしたAnatomyland by Aitor Throup


筆者が運営するSynfluxもまた、デザイン過程で排出される布帛廃棄を最小限にするためのデザインソフトウェア「アルゴリズミック・クチュール」の開発を軸とした、新しい設計方法の提案を行なっている。機械学習や3D CAD、CG技術を衣服の構造設計に転用し、エンジニアやマーチャンタイザー、デザイナー、アーティストらと、最適化されたデザインのためのアルゴリズムを開発する試みである。



Synfluxによって開発された機械学習と連動した廃棄ロス最小限のデザインプロセス「アルゴリズミック・クチュール」によって作成されたAUBIKとSynthetic Feather(HATRAとの協働)


メタデザイン再考──消費を飼いならし、創造性を再野生化するためのプラットフォームクリティークへ

これまで述べてきた諸実践を見てみると、ファッションにおけるこの5年あまりの動向が「見た目」から「仕組み」のデザインへと変容しつつあるのが見て取れるだろう。しかし既存のファッションシステムはというと、アンジェラ・マクロビーがかねてより指摘しているように、教育やメディア環境などに起因するヒエラルキー構造の問題が、「豪華絢爛なイメージの氾濫」と「ゴミ切れの薄利多売」のあいだに存在する格差を際限なく助長しているのが実情だ。一方はデザイナーのカリスマ性に、他方は低価格競争の市場原理に依存しているが、従来のファッションシステムの限界が指摘されている今、こうした旧来の創造性に期待をし続けることはもはや難しい。

対して、2010年代初頭、SNSやパーソナルファブリケーションの発達と共に、水野大二郎らによって議論されてきた、人々が潜在的に持つ野生的な創作意欲をエンパワーメントするためのアーキテクチャをメタに設計する「メタデザイン」の思想を、今一度再考し、ファッション・プラットフォームの設計思想に導入していく必要がある。とはいえ、もはやインターネットやSNSなどメディア空間で巻き起こる新たな可能性や、最新テクノロジーへの楽観的な期待に基づいて考えるのは必ずしも容易とは言い難い。わたしたちが営む衣生活は、地球規模に張り巡らされた生産と流通網がもたらす自然破壊的、倫理的問題を重くまとい、この先の未来に影を落としている。惑星規模の計算処理ネットワークが人間の意思決定や行動を完全にガバナンスするようになったのだというベンジャミン・ブラットンの主張を踏まえてみても、インターネットやSNSなどのサイバーメディア空間は、人々の創作への動機を支援するというよりはむしろ、加速度的に消費への欲動をますます喚起するようになっている。

そんななかで、ファッション・プラットフォームの取り組みが示すように、過剰に膨れ上がった消費を飼いならし、その代わり、衣服の利用者や生産者の創造性を再び野生化するための新たな創造循環を実装することが重要だ。そのために、アリス・ペインが提案する、モノとしての衣服や衣服を着るヒトだけではなく、データやアルゴリズム、バクテリアなどの新しいアクターを制作の循環へ招き入れることを通して、包括的なサービスやシステムを再設計していくための「ファッション・システムシンキング」が肝要になる。人間中心主義の限界を踏まえたスペキュラティヴ・デザインやバイオデザイン、アルゴリズミックデザインといった新しいデザイン手法★7や、メディア論研究で勃興しつつあるプラットフォーム批評の言説を積極的に参照することも有効だろう★8

ファッションシステムへのクリティカルな批評を介して、オルタナティヴなファッション・プラットフォームを構想すること──既存の仕組みに対する並行世界を夢想するための、パラ・プラットフォームとでもパラフレーズしてみよう──それが環境危機の時代における自由で自律的なファッションへの数少ない希望なのである。


★1──アンドリュー・モーガン監督作品。2013年、バングラデシュ、ダッカ近郊の縫製工場のビルが倒壊して1,100人以上が亡くなる事故が起きた。この事件を発端にして撮られた、ファッション業界の構造的な労働、人権、環境問題を告発するドキュメンタリー。https://unitedpeople.jp/truecost/
★2──Global Fashion Agenda and The Boston Consulting Group., 2017. Pulse of the Fashion Industry. Report to the Copenhagen Fashion Summit 2017. Hereafter, the ‘Pulse Report 2017’. https://www.globalfashionagenda.com/publications-and-policy/pulse-of-the-industry/
★3──Elizabeth Paton「Extinction Rebellion Takes Aim at Fashion」(The New York Times、2019年10月6日)https://www.nytimes.com/2019/10/06/fashion/extinction-rebellion-fashion-protest.html?searchResultPosition=2
★4──2018年12月10日、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局は「ファッション業界気候行動憲章(Fashion Industry Charter for Climate Action)https://www.unic.or.jp/files/3ff45a02e1400544c108bf9643e45663-2.pdf」を制定。https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/32117/
2020年9月15日、同憲章は業界向けの二酸化炭素排出量削減ガイドブック「気候アクション・プレイブック(Climate Action Playbook)https://unfccc.int/sites/default/files/resource/20_REP_UN%20FIC%20Playbook_V7.pdf」を発行した。
https://unfccc.int/news/signatories-of-the-fashion-industry-charter-launch-guide-to-support-collaborative-climate-action
★5──「Nifty Gateway to Become Carbon Negative」(GEMINI、2021年3月29日)https://www.gemini.com/blog/nifty-gateway-to-become-carbon-negative
★6──Nic Carter「How Much Energy Does Bitcoin Actually Consume?」(Harvard Business Review、2021年5月5日)https://hbr.org/2021/05/how-much-energy-does-bitcoin-actually-consume?utm_medium=email&utm_source=newsletter_weekly&utm_campaign=weeklyhotlist_not_activesubs&deliveryName=DM131722
★7──川崎和也監修・編著、『SPECULATIONS──人間中心主義のデザインをこえて』(ビー・エヌ・エヌ新社、2019)
★8──門林岳史、増田展大編著『クリティカル・ワード──メディア論 理論と歴史から〈いま〉が学べる』(フィルムアート社、2021)や伊藤守編著『コミュニケーション資本主義と〈コモン〉の探求──ポスト・ヒューマン時代のメディア論』(東京大学出版会、2019)を参照。


参考文献

・水野大二郎編著『ファッションは更新できるのか? 会議 人と服と社会のプロセス・イノベーションを夢想する』(フィルムアート社、2015)
・連勇太朗、川崎和也、島影圭佑「建築論壇 メタデザインの思考: 変化に対応する計画への想像力」、『新建築』(新建築社)、2019年11月号、pp.32-37
・Benjamin H. Bratton、Nicolay Boyadjiev、Nick Axel『The New Normal』(Strelka Press + Park Books、2021)
・Sandy Black『Eco-chic: The Fashion Paradox』(Black Dog Publishing、2008)
・Angela McRobbie『British Fashion Design: Rag Trade or Image Industry?』(Routledge、2003)
・Alice Payne『Designing Fashion's Future: Present Practice and Tactics for Sustainable Change』(Bloomsbury Visual Arts、2021)

  • ファッションのプラットフォーム・クリティーク試論──衣服の表層から循環基盤のメタデザインへ

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