フォーカス
燃えるドラゴン──「文化」が熱い九龍半島
太田佳代子
2009年02月01日号
市民参加型の国際的文化都市開発へ
しかし、ブランド美術館クローニング方式というか、手っ取り早い文化移植方式は結局、香港では錨を下ろせなかった。市民が黙ってはいなかったのである。
この巨大再開発をディベロッパー一社に任せるという香港政府の方針に地元の政界・財界・市民が大反発。2004年末には反対デモが起こり、2005年10月、ついに世論の圧力を受け止めた香港政府が入札条件を大幅に変更、ディベロッパーは一斉に手を引いた。列強美術館の香港上陸は、一度白紙に戻された。翌年、香港政府は計画の抜本的見直しを決定し、WKCDは市民参加型の国際的文化都市開発に切り替わった。
香港進出を推進したグッゲンハイム財団のディレクター、トム・クレンズは、WKCDへの参入が不可能でも、やはりポンピドゥーとともに香港で別の機会を探す取り決めがある、と発言したが、その彼も昨年春、グッゲンハイムを去った。
現在行なわれているコンセプト・コンペの最終候補12チームは、それぞれ香港市民への説明と議論を繰り返し、そこで選ばれたチームがこの地区全体のマスタープランナーになる模様だ。彼らがそのマスタープランに組み入れる、抜本的見直し後の計画リストに「4つの美術館」はなく、代わりに「M+」(ミュージアム・プラス)なる新基軸の美術館が掲げられている。このM+は「20・21世紀の作品にフォーカスした」総合的アートの拠点であり、「ビジュアルアートだけでなく、建築、デザイン、映像、大衆文化(広告、マンガなど)」まで分野を広げ、しかも「現代香港の視点から」扱うことをモットーとしている。その規模はポンピドゥー、MoMA、テート・モダンを超える★4。
香港、アジアの主体性を重視するM+が実際どこまで新しい魅力を持つかで、香港が世界のアート地図に乗るかどうかが決まるだろう。香港政府も、世界の並みいる人材に知恵を絞らせる工夫をしているし、建築家・アート関係者グループのアタマと、市民との活発なぶつかり合いのなかから一体どんなアイデアが出てくるか、当分目が離せない。
★1──グッゲンハイム美術館とルーブル美術館のフランチャイズ、世界のスター建築家を積極的に動員した、アラブ首長国連邦アブダビのメガ文化開発計画。www.saadiyat.ae/
★2──www.hab.gov.hk/wkcd/ifp/eng/site.htm
★3──www.guggenheim.org/guggenheim-foundation
★4──http://www.hab.gov.hk/wkcd/pe/eng/report4.htm