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2009 AICA USA AWARD ──国際美術評論家連盟米国 AICAアート・アワードにみるアメリカのアート・シーンが迎える転機
梁瀬薫
2009年03月01日号
ニューヨークの冬期アート・シーンは伝統的なアート・フェアであるアーモリー・ショウやプリント・フェアが目玉となっているが、国際美術評論家連盟米国支部AICA (Association Internationale des Critiques d’Art。1949年にユネスコと提携する非営利団体としてパリで発足。現在64カ国が加盟し会員数は4,000人以上に及ぶ)が毎年同時期に開催するアート・アワードも全米から注目を集めるイベントだ。全米だけでなくヨーロッパからもジャーナリストや美術評論家が参加する。賞はその年の最も優れたアーティスト、企画展とキュレーターなどに贈られる。これまでの受賞者には2000年度ヨーコ・オノ「イエス・ヨーコ・オノ」、2005年度村上隆「リトルボーイ」展、2006年度ジャン・クロードとクリスト「ザ・ゲーツ」などポピュラリティーの高い展覧会からだけでなく、2003年度「転倒したユートピア:南米の前衛アート」、2006年度「WACK! アートとフェミニストの革命」といった政治色の濃い企画、「ルーベンス:素描」など伝統絵画の歴史に焦点を当てた企画展も選ばれている。
AICA USA=International Association of Art Critics USA
2008年のアート・シーンと経済危機
今年で25回目を迎える授賞式は3月2日グッゲンハイム美術館にて開催。美術館展、画廊展、オルタナティブ・スペース展、デザイン、映像など全部で13部門に分かれる。本年度の特徴としては、シカゴ美術館が企画した「ジャスパー・ジョーンズ:グレイ」やグッゲンハイム美術館とテート・モダン、ポンピドゥー・センターの共同企画展「ルイーズ・ブルジョア」といった確立されたアーティストを再考したもの、また、フォートワース現代美術館の企画展「空間の言明:マーク・ロスコ、バーネット・ニューマン、ルチオ・フォンタナ、イヴ・クライン」展などキュレーションの実力を見せる正統的美術展などが受賞している点だろう。全体的な傾向としては、エンターテイメント要素の強いショーよりはむしろ、しっかりと見せる企画展に賞が集中しているが、一方では本年度から芸術の分野として新しくパフォーマンス部門が加わり、アートの多様性も顕著である。また米国最悪の経済危機に直面し、アート界にもその波が押し寄せていることは確かで、影響は多岐におよぶ。美術館だけでなく商業画廊でさえ共同企画展を開催するようになっているのである。ニューヨークの大手画廊の多くは美術を投機目的とするような金融街や企業の顧客がめっきり減り、新鋭作家をスターダムにのし上げるような個展ができなくなっている。昨年秋の『アート・インフォ』誌が特集した「経済危機のアート界への波紋」において、「金融関係や企業の顧客は欠けてしまったが、ニューヨーク以外(国外)のコレクターはまだ健在。ただし、作品のプライスが見合わなければ簡単に見送ってしまう」(チェルシー地区の大手画廊の一つ303ギャラリーのオーナー)、「アート・バイヤーはこれまでのように相場買いではなく、自分の目で確実に見極めて購入を決定し始めた」(画商アンドレア・ローゼン)といったコメントが寄せられていたが、バブル期の市場のために操作されたアート・シーンはここにきて完全に幕を降ろしたといえよう。オバマ新大統領の就任がアートの流れを変えるかどうかはまた別の話ではあるが。
第25回AICA AWARD(2008年度)受賞者リスト
1. 最優秀国内美術館個展
第1位「ジャスパー・ジョーンズ:グレイ」
シカゴ美術館企画、メトロポリタン美術館協力
第2位「ダリ:絵画と映像」
テート・モダンとロサンジェルス・カウンティー美術館共同企画
2. 最優秀国内美術館テーマ展
第1位「古き、奇妙なアメリカ」展
ヒューストン現代美術館 キュレーター、トビー・カンプス
第2位「空間の言明:マーク・ロスコ、バーネット・ニューマン、ルチオ・フォンタナ、イヴ・クライン」展
フォートワース現代美術館 キュレーター、マイケル・オーピング
3. 最優秀ニューヨーク美術館個展
第1位「ルイーズ・ブルジョア」
グッゲンハイム美術館とテート・モダン、ポンピドゥー・センターの共同企画
第2位「マーティン・パーイヤー」
ニューヨーク近代美術館
4. 最優秀ニューヨーク美術館テーマ展
第1位「アクション/アブストラクション:ポロック、デ・クーニングとアメリカ芸術 1940-1976」
ユダヤ美術館企画 協力アルブライト・ノックス美術館、セント・ルイス美術館 キュレーター、ノーマン・クリーブラット
第2位「カラー・チャート:色の再発見 1950年から現代」
ニューヨーク近代美術館 キュレーター、アン・テムキン
5. 最優秀ニューヨーク商業画廊展
第1位「ジャスパー・ジョーンズなんか怖くない」
トニー・シャフラジ画廊開催 ウルス・フィッシャーとゲヴィン・ブラウン企画
第2位「ジェス:ペインティングとペイスト・アップ」
ティボー・デ・ナジー画廊
6. 最優秀国内商業画廊展
第1位「ジェイムス・ウェリング」
リーガン・プロジェクト(ロサンジェルス)
第2位「ジェイ・デフェイオ:黒の事実に賞賛」
ニールセン画廊(ボストン)
7. 最優秀非営利画廊あるいはスペース展
第1位「フレデリック・キースラー:共存する現実」
ドローイング・センター(NY)開催 キースラ財団(オーストリア)協力
第2位「エミネント・ドメイン:現代写真と都市」
ニューヨーク図書館
8. 最優秀大学美術館展
第1位「新しい創造:サラとジェラルド・マーフィーのアートとスタイル」
ウィリアムス大学美術館(マサチューセッツ州)
第2位「ニューヨーク・クール:ニューヨーク大学収蔵品の絵画・彫刻作品から」
ニューヨーク大学グレイ・アート・ギャラリー
9. 最優秀パブリック・スペース展
第1位「建物を遊ぶ:デヴィッド・バーンのインスタレーション」
クリエイティブ・タイム(NY)
第2位「マイク・ネルソン:サイキック・ヴァキューム」
クリエイティブ・タイム(NY)
10. 最優秀建築・デザイン
第1位「バックミンスター・フラー:宇宙から始める」
ホイットニー美術館企画、スタンフォード大学協賛
第2位「デザインと柔軟な心」
ニューヨーク近代美術館
11. 最優秀歴史展
第1位「ギュスターヴ・クールベ」
メトロポリタン美術館、フランス連盟美術館、オルセー美術館共同企画
第2位「プッサンと自然:アルカディアン・ヴィジョン」
メトロポリタン美術館、ベラ・アート美術館(スペイン)
12. 最優秀デジタル・メディア、ヴィデオ、フィルム展
第1位「カリフォルニア・ヴィデオ」
ポール・ゲッティー美術館
第2位「ファスビンダー:ベルリン・アレクサンダー広場」
P.S1コンテンポラリー・アートセンター
13. 最優秀パフォーマンス
第1位「6部の中の18のハプニング」
パフォーマ07制作、ミュンヘンハウス・デール・クンスト協力、ダイチ・スタジオ開催
第2位「ニューオーリンズでゴードーを待って」
ポール・チャン企画、クリエイティブ・タイムとハーレム・クラシカル・シアター共同制作