フォーカス
ドバイは死なず
太田佳代子
2009年06月01日号
経済危機以後のドバイを取り巻くアート状況を、3月下旬に開催されたアートフェア「アート・ドバイ」を中心にお伝えします。
アフター・クライシスへの希望「アート・ドバイ」
経済危機以後、ドバイへの眼差しがガラリと変わった。すべてが途方もない規模とスピードで競い合うように作り上げられてゆく一種異様な世界への瞠目は、クライシスを境に、嘲りの混じった冷ややかな視線に一転したと言えるのではないだろうか。
たしかに都市開発・建設に限ってみれば、打撃は深刻だ。ドバイの建設プロジェクトの53%がストップないしはキャンセルされたのだから。最大の犠牲者とも言えるインドやパキスタンからの建設労働者たちに起こった新たな悲劇が、欧米のメディアで頻繁に伝えられている。
しかし、本当にドバイは挫折したのだろうか。
今年3月下旬に開かれたドバイのアートフェア「アート・ドバイ」も、経済危機の煽りによる落ち込みが懸念されていた。ところが結果は予想に反して良好。まずまずの感触とともに幕を閉じた。売上げこそ、狂気じみていた去年の額を下回ったものの、ソリッドな市場としての信用が確立され始めたというのが概ねの実感だったようだ。リソン・ギャラリーやL&Mアーツなど、今年から参加した欧米の有力画廊もあり、有名コレクターや有名美術館トップも訪れと、このアート市場への国際的な期待が高まりつつあるのは確かなようだ。
少なくともアートや文化のジャンルには、「アフター・クライシス」への新しい希望が見て取れる。このアートフェアが示したのは、加熱する建設ブームの陰でもうひとつの現象が着実に進み続けていることだった。それは中近東・北アフリカ・南アジア(Middle East, North Africa, South Asia、略して「メナサ」)という地元出身のアーティストが育ってきている、ということである。