フォーカス

NY芸術の秋の旬な展覧会

梁瀬薫

2009年11月01日号

長い夏休みのあと、9月は学校もビジネスも一年の始月だ。不景気のなか、懸念されていた今シーズンのオープニングは予想以上に手ごたえのある画廊展が多かった。そんななかから、今秋注目の展覧会をいくつか紹介したい。

Magnus Plessen
マグナス・プレッセン絵画新作展

9月10日〜10月24日
Gladstone Gallery(www.gladstonegallery.com

2003年のヴェニス・ビエンナーレで、その絵画のアプローチが注目されて以来、ヨーロッパを中心に活動を続けているドイツ人画家プレッセンの新作個展がニューヨークでは2年ぶりに開催された。「未完成絵画におけるプロセス・アート」だと画家本人が言明しているように、どの作品においても、フィギュアや日常のオブジェを、筆致とキャンバスの余白でもって注意深く抽象的に再構築し、独特な空白感をもたらしている。新作展でも絵画へのアプローチは一環しており、コカコーラの缶や女性像を用いた、平面という規制にあえて挑戦するのではなく、いかに平面的に物事を置き換えていくかというコンセプトが明快だ。新作では特にキャンバスの配置が工夫されており、ミステリアスなストーリーが極めて静的な絵画空間の中で提示されていた。




上:マグナス・プレッセン展会場風景 筆者撮影
下:マグナス・プレッセン《コーク》2009年 油彩 左97x142cm、右110x150cm

William S. Burroughs “The Sky Is Thin as Paper Here”
ウィリアム・バロウズ「空はこの紙のように薄い」展

9月12日〜10月31日
Stellan Holm Gallery (www.stellanholm.com

1950年代のビートジェネレーション作家のひとりであり、ローリー・アンダーソン、ラウシェンバーグやキース・ヘリングらとのコラボでも知られるように20世紀におけるアート界に多大な影響をあたえ、著書では実験小説の英雄とまでなった、アメリカ人詩人ウィリアム・バロウズ(1914-97)の絵画展がチェルシーの画廊で開催され、再び注目を集めている。展覧会タイトルの「空はこの紙のように薄い」は『裸のランチ』出版50周年を記念してつけられているが、展示作品のほとんどは1982年から1995年に製作された、絵画、ドローイングそしてキャンバスや紙に銃弾で穴をあけた独特な「ショットガン絵画」による作品で、バロウズの晩年において、画家として実を結んだ時期の作品だ。画家としてのバロウズは「チャンスの扉は開け放たれるべきた。そこには絵の具がキャンバスに滴る様や絵の具の噴射、銃撃といった偶然の要素があるべきなのだ。おそらく偶然の要素としての基本にはショットガンによる効果、つまり、予想のできない色彩の爆発を作り出すということだ」と叙述している。一般的にバロウズの詩や文学は非常に暴力的で、実験的であり、難解とされているが、絵画作品ではバロウズの内面にある、純粋で繊細な側面を視覚的に表現し得たのではないだろうか。




上:ウィリアム・バロウズ絵画展会場風景 撮影筆者
下:ウィリアム・バロウズ《無題(つり目)》1993年 紙にフェルト・ペンとガン・ショット

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