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関東エリア 荒木夏実
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 展覧会
   NEW LIFE / 小野友三展 / ドナルド・ジャッド1960-1991展
   アレッサンドロ・ラホー / 奈良美智 / グレゴリー・クリュードソン写真展
   リチャード・ゴーマン展 / 渡邊英弘個展 / 荒木経惟 / 草間彌生
 スライド・ショー
   ザ・スライド・ショー4
 音楽
   タンゴ・オペリータ「ブエノスアイレスのマリア」
 ビデオ・インスタレーション
   ヨーク・デル・クノッフェル:ジェネ=レーション・タイム・ファクター
 映画
   ビッグ・リボウスキ
 演劇・ダンス
   ナイロン100℃公演「薔薇と大砲――フリドニア日記#2」
   ピナ・バウシュ&ヴッパタール舞踏団

 

Eventザ・スライド・ショー4

出演:みうらじゅん いとうせいこう
会場:渋谷公会堂
日時:1999年2月16日


ザ・スライド・ショー4『見仏記』などで見事なコンビぶりを見せているみうらじゅん、いとうせいこうの2人による抱腹絶倒のスライド・ショーが、例年のラフォーレ原宿からとうとう渋公へと会場を移して行なわれた。みうらがそのマニアックな観察眼で撮り貯めたスライドを公開し、いとうがつっこむというスタイルでショーは進められる。“とんまつり”(とんまな祭り)を探して全国旅したり、“むかえま”(むかつく内容が書かれた絵馬)を求めて数々の神社仏閣をしらみつぶしにチェックしたりと、みうらの尋常でないエネルギーの注ぎ先にはあきれる。
既存の現象にひとひねり加えて思いも寄らぬ世界を提示する天才的視点は、どこか赤瀬川原平のそれに似ている。

 

Eventタンゴ・オペリータ「ブエノスアイレスのマリア」

作曲:アストル・ピアソラ 企画・ヴァイオリン:ギドン・クレーメル 
台本・語り:オラシオ・フェレール 歌:フリア・センコ 他 
演奏:クレメラータ・ムジカ

  会場:横浜みなとみらいホール/シアターコクーン
  会期:1999年2月20日〜22日


タンゴ・オペリータ「ブエノスアイレスのマリア」 映画「12モンキーズ」のテーマ曲やヨーヨー・マのチェロなどで日本でもすっかりおなじみになったピアソラのタンゴ。クラシック界におけるピアソラ・ブームの火付け役と言われるラトヴィア出身の世界的ヴァイオリニスト、ギドン・クレーメルがこのタンゴ・オペラの再演を実現化した。
ブエノスアイレスの裏町を舞台に主人公マリアが娼婦へと身を落としていくストーリーが、バンドネオンの妖しい音色と歌、詩の朗読によって繰り広げられていく。日本語の訳詩が電光掲示板に出るのだが、その内容が陶酔的に美しい。呪術、迷信、信仰、官能、猥雑さが入り交じった言葉が魔法のように放出される。マリアの歌声も低めで艶っぽく、語りのリズムから暴走することが決してない。聖と俗がせめぎ合う世界に魅了され続けた時間であった。
演奏者はクレーメルと同じバルト三国や北欧出身者が中心。いわゆるオーソドックスな“クラシック”では味わえない濃厚な音が、彼らとアルゼンチンのタンゴとの出会いによって生まれているのは興味深い。
Exhibitionビッグ・リボウスキ

監督・脚本:ジョエル・コーエン 制作・脚本:イーサン・コーエン
出演:ジェフ・ブリッジズ ジョン・グッドマン 他
会場:シネマライズ(渋谷スペイン坂上)
上映:1998年11月21日〜1999年3月12日


ビッグ・リボウスキLAでその日暮らしの主人公はヒッピー崩れ。つるんでいる友人2人は、ひ弱な元サーファーとすぐ戦時体験を引き合いに出すベトナム戦争帰還者。彼らは唯一マジになっている“ボウリング”の地元大会に向け闘志を燃やしている。70年代から抜けきれず、時流に完全に乗り遅れたおじさんたちのコミュニケーションがおかしい。ボーリングという設定があまりにもはまっている。
アメリカ映画には、ある階層、ステイタス、年代に焦点を当ててその独特のカルチャーを絶妙に描きだしているものが多い。表向きの多様さと自由とは裏腹に(というかそれを追求した先に)、1人の人間の周囲に描かれる円がいかに狭いかが伝わってくる。
最高にチャーミングな主演のジェフ・ブリッジズが、この映画の空気をきめている。

シネマライズ次回上映作

「愛の悪魔:フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」
監督・脚本:ジョン・メイブリィ 出演:デレク・ジャコビ ティルダ・スウィントン 他
上映:3月13日〜
問い合わせ:03-3464-0051

exhibitionNEW LIFE

会場:現代美術製作所 他
会期:1999年2月12日〜3月13日


マグナス・ヴァリン「EXIT」1997
マグナス・ヴァリン「EXIT」1997
マグナス・ヴァリン「EXIT」1997
マグナス・ヴァリン「EXIT」1997
マグナス・ヴァリン「EXIT」1997
マグナス・ヴァリン「EXIT」1997
北欧の現代美術を紹介する本展の中で、個人的には現代美術製作所の展示が一番見応えがあった。度肝を抜かれるインパクトはマグナス・ヴァリンのアニメーション作品「Exit」(1997)だ。自身も障害を持つヴァリンは身体障害者の視線で制作に取り組んでいるのだが、大火災というシチュエーションを用いながら、迫り来る死の恐怖、生存への本能や闘争心(まるで芥川の『蜘蛛の糸』だ)、暴力を鼓舞するような顔の見えない群衆の存在などを見事に暴きだす。驚くべき完成度をもつ彼の作品の中に、これまで味わったことのない怖さと同時に優れた“エンターテインメント”性を見いだすとき、いったいエンターテインメントとは何かとそら恐ろしくなる。 少しの屈折もなく、真っ直ぐにリアリティーを投げてくる勇気あるアーティストだと実感した。
一方、ボサノバの切ないサウンドに乗ってこうもりの群が一斉に飛び立つ曽根裕のビデオ・インスタレーション「Jungle Sculpture」(1999)は、曽根らしい味のある作品で思わず脱力した。何十回でも座ることに失敗したり(「Pink Space」1995)、タンホイザー序曲をバックにドラマチックに脚立から落ちる(「Step Ladder Blues」1995)ピーター・ランドの作品が、曽根と呼応しながら妖しい空気を作っていた。

 

 

 

マグナス・ヴァリン「EXIT」1997
コンピュータ・アニメーション
(c)Magnus Wallin
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exhibition小野友三展

会場:ギャラリー人
   武蔵野市吉祥寺本町2-26-12
会期:1999年3月2日〜14日
問い合わせ:0422-28-7708


小野友三展岩絵の具を塗った紙を折り返して絵の具を剥落させることにより、格子や直線の模様をつけていくというユニークな手法を使う小野。今回は麻布を重ね、糸でかがって帳面のようなめくれのある作品を展示した。所々微妙ににじんだ肌色の3点組の作品は特に印象深い。淡々しさと頼もしさが同居した色合い、3点の大きさのバリエーション、紙の重なりによって生じる三次元の深み、そして一貫して刻まれたグリッドが小気味よいリズムを作りながらこれらの要素を統合している。
静かな挑戦を重ねて魅惑的な作品を作り出すアーティストの今後がとても楽しみである。
exhibitionドナルド・ジャッド1960-1991展

会場:埼玉県立近代美術館 浦和市常磐9-30-1
会期:1999年1月23日〜3月22日
問い合わせ:048-824-0111


ドナルド・ジャッド1960-1991展 これだけまとめてジャッドを見ることができるのは貴重な機会だ。しかし彼の作品がこれほどユーモアと“色気”に富み、楽しいものとは知らなかった。パンの焼き型が埋め込まれたキャンバス型の作品は、実際に目の当たりにすると笑える。おなじみの「スタック」のシリーズでは、手前の面と側面の色の濃さが奥行きによってドラマチックに異なることに驚かされる。150cm四方のアルミの箱形を床に5個ずらりと並べたボリュームのある作品は、真横からは正方形の金属板ただ1枚が立っているように見える。種も仕掛けもないはずなのに、瞬時にして空間を変容させる見せ方はすごい。さらに触感のイメージの豊かさ。さらさら、しっとり、つるつる…。触らずとも想像できる感触がなまめかしい。また計算しつくされた作品の構造の中で、一枚すっとはめ込まれたパネルの絶妙な位置がこれまたニクい。
一人歩きした「ミニマル」という言葉とは無関係の場所で、どきどきする時間を過ごした。
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