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藤浩志
「適正技術の為の試作――サイクルリキシャ」
1998 インドにて
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山下牧子「ステージ」
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矢部崇寛「プロレスリング」
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写真:福岡県立美術館
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美術館と作家たちとの共同主催の現代美術展「アートの現場」の5回目は、藤浩志、山下牧子、矢部崇寛3氏による、「現場」をテーマにした企画。「リング」担当の矢部氏は、一辺5.4メートルの実物大のプロレスリング場を制作し、リングとアトリエを重ね合わせリング上で公開制作、公開インタビューなどを行なう。「ステージ」担当の山下氏は、拡声器にもなる巨大なピンクのブタ・タンクやブタとお揃いの色調のステージを制作、ここで出品作家やゲストたちの多彩なパフォーマンスやライブが繰り広げられている。リング、ステージともに飛び込み参加歓迎、ただいま利用者募集中。また、展覧会全体の構成と「ドライブ」担当は藤氏。下記のとおり北部九州各地のユニークな表現活動の拠点をさまざまな形態のインフォメーション・ブースで紹介し、藤氏が交流をもっている、それぞれの現場を訪ねるドライブも適宜行なっている。
北部九州地方の表現活動の現状を最も詳しく、最新の情報や資料作品で紹介する本展は、現在進行形の、まさに「現場」である。
表現活動は「なまもの」だと捉えています。美術館などに収蔵されている有名で価値の高い作品程、その作品が制作されたその時代かなり新鮮な美味しい、あるいは刺激的な「なまもの」であったはずです。作品が時代の状況を直接変化させていったり、次の時代の新しい価値をつくり出していったりし、それゆえに高く評価され美術館に保存されているわけです。
本展は、過去の保存食としての美術作品ではなく、現在旬の「なまもの」を紹介しようという企画です。絵画による表現活動を積極的にはじめて1年という矢部崇寛と、美術学校で絵画を勉強し、自分自身と表現活動の距離があいまいな山下牧子との共同作業により、現在私達が共有する感覚を探り出す演習として制作されます。生の意味が薄らぎ、様々な価値が崩壊し、社会システムが不透明な1999年の現在、それでも変化と強度を求めようとする意志は確かに存在します。「リング」「ステージ」はそれぞれ強度の為の象徴的な装置として制作され、そして「ドライブ」は様々な状況の変化と動きとスピード、そして操作を意図します。
□Drive1-RSミサカ
所在地: 福岡県前原市
代表: 三坂良彦
内容: 養鶏場の跡地を使ったアートスペース。現在、陶芸家、彫刻家、風車作家、現代美術家など、さまざまな美術家や美術関係者が制作等の場として利用。乗馬、バ−ベキュー、カラオケも可能。大きな枝を炭にしたものが必要になったアジア美術展の参加作家に素材調達の協力も行なった。藤浩志の「studio FARM」(Drive12参照)もこのスペースにある。会場ではビデオで紹介中。
□Drive2-Nrp(ノエティック・リサーチ・プロジェクト)
活動場所: 福岡市周辺
代表: 牛嶋ヒトシ
内容: コミュニケーションについてのリサーチ・プロジェクトを行なうためのシステム。1998年ミーティング「Plant」(Drive9参照)から派生。さまざまな作家にインタビューを行い記録する「個人の資源化計画」、大量のチョコを溶かして似顔絵を描く「チョコ・チップ・シスターズ」などが活動歴。ビデオ、プロジェクト・プラン、チョコレートオブジェなどで紹介中。
□Drive3-gallery&cafe SOAP
所在地: 北九州市小倉駅近く
代表: 母里聖徳・宮川敬一
内容: 1997年オープンしたカフェ併設のアートスペース。北九州の複数の美術家たちの手で運営しており、ライヴや展覧会の企画を活発に行なっている(「ノイズ・ガレージ展」も)。各地のアートスペースの情報なども充実しており、いま北九州でもっともエネルギッシュなスペースといえる。今回は実際カフェで使われている机やベッドを持ち込み、これまでの活動記録を大量に展示中。カフェのスタッフ連絡ノートまで展示していて微笑ましい。
□Drive4-大分美術研究所
所在地: 大分市
代表: 二宮圭一
内容: 美大受験生のための研究所としてスタートしたが、なし崩し的に逸脱し、土曜美術講座や展覧会の企画、ビデオ番組制作など多彩に展開していった。この3月に活動を休止したが、スペースは残っている。
多くの若手作家を育て、支援し続けた功績は大きい。阿部浩二、山出淳也らも同研究所出身。今回は同研究所出身の7人の若手作家の作品を1、2階に点在させて拡散したブースとして展開中。
□Drive5-ホッペ黒嶽山麓美術会議
活動場所: 大分県大分郡黒嶽山麓
代表: 岡山直之
内容: 1996年黒嶽山麓にアートプロジェクトを展開するために発足。98年4月から「コヤプロジェクト」をスタートさせ、その第1弾として藤原雅哉による「参上!噂の泊ジロー」を企画。今回は、その際3、4ヶ月かけて制作した巨大な小屋を現地から力わざで移築!(すべての板材に番号がふられているのにご注目を) 鍋、ろうそく、ザイル、蝿とりリボンやちゃぶ台が置かれた小屋の内部に詳細な会議録、写真、ビデオ等を展示している。
□Drive6-パラサイトプロジェクト
活動場所: 北九州市小倉界隈
内容: 宮川敬一ら北九州の作家たちによって、小倉駅周辺の公共の都市空間でゲリラ的に展開されるアートイベント。基本的に無許可での展示のため、当局によって直ちに撤去される作品が多いが、中には奇跡的に現在も都市空間に寄生(パラサイト)している作品もある。写真集で紹介中。
□Drive7-こうま荘 Extra
所在地: 福岡市西区大原海水浴場
主催: 海の家こうま荘・フラッター
内容: アーティストが設計、施工、運営する新しい形の海の家。1999年6月20日〜8月31日まで開業予定。活動前なので、今回はプランと広報チラシのみ。
□Drive8-灰塚アースワークプロジェクト
所在地: 広島県灰塚ダム周辺
内容: 広島県北東部の双三郡三良坂町、吉舎町と甲奴郡総領町にまたがる江の川水系上下川に、2005年の完成を目指して建設がすすめられている灰塚ダムの、周辺整備事業の一環として1994年から始まった「環境美術圏」活動。灰塚ダムの周辺をアートを活かしたエリアにしようとする画期的なプロジェクトで、周辺整備計画による施設のデザインに関わるばかりでなく、毎年国内外の芸術家を招いたサマーキャンプやシンポジウム、ワークショップを行なっている。関連の資料を多数展示中。
□Drive9-Plant Demonstration
活動場所: 福岡市周辺
事務局長: 徳永明夫
内容: 表現活動を苗を植える行為にたとえ、様々な状況が発生することを目的として組織された表現活動のオペレーション・システム。1997年から98年にかけて月2回の自由参加のミィーティング「Plant」を開設。98年「ミュージアム・シティ・福岡」に参加したが、現在活動休止中。写真と企画書を中心に紹介中。
□Drive10-ピクニック
活動場所: 大分県速見郡山香町
参加作家: 木村秀和、藤田洋平、岡山直之
内容: 山仕事(森林組合)を共通項にもつ3人が企画した展覧会。山の中に散歩道やゲートをつくったり、かずらの束を背負って麓から頂上まで登るなど、山について考えながら表現を行なう1週間を過ごした。報告書を専用の机と椅子に展示中。
□Drive11-Artist camp in Aso
活動場所: 熊本県阿蘇郡小国町
内容: 1993年から毎年1回アーティスト・キャンプを開き、寝食を共にしながらさまざまなジャンルの作家たちが、毎回異なるテーマで制作を行なう。第4回までは素材がテーマに、昨年の第5回は行為がテーマ。毎回図録を制作。
□Drive12-studio FARM
所在地: 福岡県前原市
代表: 藤浩志
内容: RSミサカの中にある制作スタジオ。1997年オープン。今回は「アートの現場」展をプロデュースする現場として新人作家に場所を提供し、毎週土曜日に制作とミーティングを行なってきた。現在、東京在住の美術家磯崎道佳が自主的なアーティスト・レジデンスとして滞在中、またスタジオの一部は現在県立美術館の展示室内に移動し、藤氏らが次なる作品の制作を続けている。
◇毎週末(土、日)の午後、出品作家やゲストによるパフォーマンスや公開制作等を随時予定(詳細は美術館までお問い合わせを)。
◇5月9日(日)15:30〜16:00、玄関前のリング上にて、「獣神サンダーライガー公開インタビュー」(インタビュアー:矢部崇寛)を開催。