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関東エリア 荒木夏実
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 演劇
   猫のホテル公演「しぶき」 / ナイロン100℃公演「Take the Money and Run」
 イベント
   吉祥寺 Music Festival: Swinging London 66-67 / パゾリーニ映画祭
 音楽
   矢野顕子「出前コンサート」
 展覧会
   額田宣彦展/ Phenomenon真喜志奈美+金美貞/ ミミ・ゲルマン展
   身体のロゴス:ドイツからの14人の女性アーティストたち/ レメディオス・バロ展
   大竹伸朗展:ZYAPANORAMA / 目撃者:写真が語る20世紀
 トピックス
   書籍『DOBSF:ふしぎの森のDOB君』/ バッファロー '66

 

Theatre猫のホテル公演 「しぶき」

作・演出:千葉雅子 出演:中村まこと 市川しんぺー 他

会場:ザ・スズナリ(下北沢)
上演:1999年4月9日〜13日


猫のホテル公演「しぶき」私は芝居に対してかなり臆病というか保守的である。展覧会ならつまらなければその場を立ち去ることで済むが、閉じた空間の中で音に包まれ、一方的にストーリーを見せつけられる演劇は、感性が合わないと拷問に近いものになる。そこで知人の評判などをもとに恐るおそる手を出すのだが、時々素晴らしい出会いがある。職場で演劇事業を企画している同僚に連れられて今回初めて見た猫のホテルの公演は、そんな芝居であった。80年代後半の大晦日、暴力団のパーティーに出席したことで紅白を降板させられた北島三郎とファミリーがくだを巻くシーン(設定が細かくていねい!)で始まる「しぶき」は、バブル期からその崩壊までの時代背景をベースにナンセンスな物語が展開するコメディー。美容院やファッション業界などの描写を通して、90年代の現在からはもっともダサく映る80年代らしさを見せるあたりが上手い。セリフも笑いもどんどん予想を裏切りながらスピーディーに転がっていき、まるで前が見えない。劇団を主宰する千葉雅子の奇妙なユーモアのセンスが光っている。
これでもかというほど新鮮な言葉と身振りのネタをつめこんだおいしい芝居は、本当に贅沢なものだ。そのリッチさはテレビなどでは絶対味わえないものだが、経済面での採算性からはほど遠いことも確かだ。200席ほどのスズナリを連日満席にしたって劇団運営の赤字は必至である。こんなイキのいい劇団が疲弊しないで伸びていくことを心から祈るばかりだ。

 

Event吉祥寺 Music Festival: Swinging London 66-67

会場:バウスシアター(吉祥寺北口サンロード)
上映:1999年4月30日〜5月1日
問い合わせ:0422-22-3555

  作品:Tonite! Let's All Make Love in London(1967年イギリス)
  監督・製作:ピーター・ホワイトヘッド
  出演:ザ・ローリング・ストーンズ デヴィッド・ホックニー 
     エリック・バードン&ジ・アニマルズ 他

  作品:The Pink Floyd(1994年イギリス)
  監督・ピーター・ホワイトヘッド
  出演:ピンク・フロイド


吉祥寺 Music Festival: Swinging London 66-67“ジャズの街”吉祥寺で毎年行なわれる吉祥寺音楽祭の一環として音楽関係の映画が数多く上映された。「Tonite!...」は“ポップ・カルチャー” をキーワードにして作られた1966〜67年を撮したドキュメンタリーで、当時のかっこよさと悪さ両方が詰め込まれたちょっと気恥ずかしい映画だ(題名もね)。若きミック・ジャガーは頬がふっくらしてかわいく、青くさいことを言っている。さすがデヴィッド・ホックニーはキュートかつ辛辣。彼は、労働者は早く寝ろとばかりにさっさと閉まるロンドンのパブと比べて、配管工と一緒に飲めるかもしれない、そしてビジネスや金儲けの話につながる面白い人との出会いに満ちているカリフォルニアのバーの良さを主張する。「The Pink Floyd」は66〜67年に撮られたフィルムを改めて編集したもの。彼らの音楽はかっこいいけど腕のいい職人の集まりという感じで、あんなマニアックなものがけっこう“ポップ”な感じで受けいれられていたとはちょっと信じがたい。
クールなことが起こりつつも、それが歴史の中でどんな風に位置づけられていくか皆目見当もつかなかった頃の混沌とした時代の空気を感じた。
music矢野顕子「出前コンサート」

開催日:1999年5月29日(土)
会場:水戸芸術館コンサートホールATM(水戸市五軒町1-6-8)


矢野顕子「出前コンサート」ピアノ一台あれば注文に応じて全国どこにでもでかけるという矢野顕子の「出前コンサート」。半円形型の水戸のホールは客席と舞台が近く、このようなコンサートにはぴったりである。黒のワンピースにキラキラしたエナメル(?)靴で元気良く舞台に登場したアッコちゃんはすごくかわいい。“えーと、次の曲はなんだっけ”なんて肩に力の入らない雰囲気を漂わせながら、しかしその声とピアノにはパワーがみなぎっている。“自分の曲が世界一とは思っていない”と語る彼女は、ムーンライダーズの隠れた名曲など、かなり渋いがお薦めといった歌を数多く披露した(もちろんどれもすごく矢野顕子だが)。楽譜はなく、歌詞だけが書かれた紙を見てキーを思い出しながらピアノを弾く(かっこいい)。
音に言葉のメッセージを乗せて人の心に届ける。このシンプルで難しい仕事をきちんと行なっている人だと思った。改めてその才能に敬服する。音って面白い、人の声っていいな、そんな音楽の楽しさの根本を感じさせてくれるコンサートであった。
exhibition額田宣彦展

会場・会期:ギャラリーユマニテ東京(中央区銀座1-8-2 4F)
      1999年4月5日〜27日
      ギャラリーNWハウス(新宿区西早稲田1-3-7) 
      1999年4月7日〜27日 

額田宣彦展 98
額田宣彦展 99

同時期に2つの画廊で行なわれた額田宣彦の展覧会はなかなか楽しいものだった。おなじみの立方体の模様を展開させて飛行機や自動車などのお茶目なデザインも見せている。
しかし額田の作品の醍醐味は、やはり具体的な図像よりも延々と連続するパターンにこそ見いだすことができるだろう。視覚を挑発するかのような斬新な色の組み合わせと幾何学的な単位の繰り返しによって、いつしかパターンは生き物のように自立し、動き始める。間近に見る彼の作品の中には、色の重なりが透けて見えていて制作プロセスを想像できるものもあり、予想以上に手仕事の感触が伝わってくる。
作家の確かな筆使いによって生まれる色と形の冒険は、まだまだ続く。
exhibitionPhenomenon Nami Makishi+Mijong Kim

会場:ガレリア・キマイラ(大田区久が原1-22-1)
会期:1999年4月13日〜6月5日
問い合わせ:03-3754-2200


Phenomenon Nami Makishi+Mijong Kim日本人の真喜志奈美と韓国人の金美貞という2人の女性アーティストによるコラボレーション展。彼女たちはベルリン留学中に出会い、現在ソウルに住んで活動を続けている。
ビデオとスライドによって構成されたインスタレーションの中で、ビデオ作品は特にインパクトがある。果てしなく連なる高層アパートの外壁の映像が、スクリーンの右から左へと流れていく。空や木々などは一切見えず、コンクリートの壁の表情だけが眼前に迫り来る。窓の四角い形、大きさ、間隔がバリエーションを作りながらユニークな模様を描いていく。ややピンぼけに接写された映像は、具体的なイメージを失ってほとんど抽象絵画のように見える。静かに、かつスピード感をもって動いていくこの不思議な風景は最高にかっこいい。
ヨーロッパでの生活を経てソウルに移り住み、延々と続く高層アパート群の風景を見たとき、それがまるで“お経のように感じられた”と語る真喜志は、そこにどこでもない虚空間の居心地の良さを見いだし、作品化したのだという。無機的で整然としたものとごちゃごちゃしたものが平気で同居するこの都市の感覚は、日本や韓国で当たり前でもヨーロッパではちょっと理解されないものかもしれない。
いいところを突いてくる、ニクい作品である。
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