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この記事は、中村ケンゴがnmp-international 7/25号(1998) artist file掲載のためにインタヴューしたものである。 ____________________________________________________________________
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ケンゴ
青山スパイラル(TAKEOコミュニケーションデザイン1998ペーパーショウ)やVOCA展で発表された作品を見ても思うんだけど、岡田さんの作品というのは僕にとっては「現代美術」を見に行くって言うよりは渋谷でポップミュージックのシングルCDを買って聴いて、けっこういいじゃんって(笑)、そんな感じなんですよね。もしアートにもヒットチャートがあれば岡田さんの展覧会は必ず上位にチャートインするみたいなね。バカなこと言ってますが。作品自体よくよく見ればヘヴィなことだって思うこともあるけど、それはポップミュージックについても同じことだし。 岡田 うん。何をつくろうかなと思ったとき、どんな美術作品をつくろうかなとは思わないですね(笑)。最近は恋愛が作品のテーマになっているんですけれど、恋愛というのは映画でも音楽でもすごくポピュラーなテーマだったりするじゃないですか。でも意外に美術では避けてきているんじゃないかと感じたりしているんです。 |
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ケンゴ
ポップミュージックって90%はラブソングと言ってもいいですよね。どうして美術はこのテーマをあまり扱わないのかな。セックスについてはたくさんあるのに。 岡田 だから私の作品を前にすると普段は難しい顔をしている学芸員の人とかが、「キャー」とか「いやーん」みたいな感じになっちゃったりとか(笑)。美術のことじゃなくて自分の個人的なことに返ってきちゃうんじゃないかな。言ってしまえば歌謡曲にも唄われているような内容だったりするのかもしれないけれど、逆にそういうところでのおもしろさってあると思うんです。 |
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ケンゴ
岡田さんが日常において普通に悩んで考えていることが素直に作品になっているから見る人にインパクトを与えられるんじゃないのかな。現代美術というものは日常から離れたところで行なわれているものだという先入観がたくさんの人にあると思うしね。 岡田 たしかにそういったことも重要な見方ではあると思いますが、例えば技法的なこととかね。私はそんなこと全然問題にしていないんですけど(笑)。あと、身体についてとか、モザイクを使った作品もあるんだけど、その場合モザイクだけに視線がいっちゃったりとかね……。私としては、例えばバキバキに現代美術というものを求めて作品を見に来た人が素になっちゃうようなものができればベストかなとか、そういう気持ちはありますけれど。 ケンゴ だからあんまりフォーマルな見方をされてもつまらなくないですか?こういう素材を使ってこういった技術を利用した表現云々とか。 岡田 技術的なことはよく言われますね。カラーコピーからインクジェットプリントまでいろいろと使ってるんだけど、それは単純に画面を大きくできればいいとか、そういう中で今回だったら写真だなとかプリントだなとか。 |
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ケンゴ
あまり形式主義的な批評よりむしろ僕はポップミュージック雑誌に出ているライブレポートとかアルバム評とかそっちに近いテイストのものがあってもいいんじゃないかとも思うんです。 岡田 そうですね。そういうのだったらどういうふうに書かれるんだろう。興味深いですね。 |
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ケンゴ
日本の美術メディアは美術のことしかやらないというか、自らの文脈の中に留まりがちなところはあるかもしれない。 岡田 インタヴューにしても美術のことばかりだしね。ちょっと真面目過ぎるっていうか。もっといろんな角度から記事をつくってもいいかな、と思いますね。 ケンゴ 実際に観客の反応がおもしろかった作品について話してもらえますか。 岡田 清水湯という銭湯で「KISS」という作品を発表したときに(東京、青山で96年に行なわれたアートイベント"Morphe"で、岡田は銭湯のガラス窓に自分のキスマークを大量に透明シートにカラーコピーしたものを貼り付ける展示を行なった)アンケートをその銭湯に置いてもらったんですね。そのアンケートがおもしろくってすごく良く書いてくれる人と最悪だって書いてる人と両方いるんです。あと、例えば女湯の場合だとおばさんとかが「もう恋愛のことなんて考えるのは疲れるから考えさせないでくれ」とか(笑)。女性だと血液を連想する人もいました。 ケンゴ 男性の反応は? 岡田 その銭湯は珍しく若い女性が番台に座っていたから「あの娘がつくったのかなー」とか言ってる人もいたし(笑)、毎日通ってる人もいるわけだから帰り道に青山通りを歩きながらソワソワしてしまうとか……(笑)、いろんな答えがあっておもしろかったですよ。 |
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ケンゴ
ゆっくりお風呂にも入れないね(笑)。 岡田 ただ、やっぱりちょっと境界線を越えちゃった部分もあるかなと思うんです。ギャラリーのような作品が守られている空間ではなくて、人が自分で選んで入ってくるところでもないし。 ケンゴ 公共の場ですものね。なおかつ裸になるところだし。お客さんはお風呂に入りに来ているだけなのに否応なしに作品と対面しなければならない。そういう意味では暴力的な作品でしょう。 |
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岡田
そう。嫌だと書いている人も作品的にどうこうというんじゃなくて直接自分を通して作品に反応があるというか。アートイベントの一貫として発表したものだったから最低限のお断りみたいなことはしたんだけれど、やっぱりすごく喜んでいる人もいたけど撤去しろという人もいたし……。だから私もいろいろ言われて一瞬落ち込んだりもしたんだけれど、現代美術ってほとんど一般の人からのリアクションが無いわけだから怒るにしても何にしても作品に対していろいろ言われたことは良かったと思ってます。 ケンゴ 初期は自分自身の身体を扱った作品をつくっていましたよね。それが恋愛というテーマに移行していったのはどうしてなんでしょうか。「KISS」は両者の間くらいになると思うんですけど、自分というものを扱っていて、例えばそれがだんだんしんどくなってきて、恋愛という"関係"を重視したものの方が自分のことも客観的に見られるし、作品としても幅も広がるとか。 |
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岡田
ちょっとした視点の転換だったかもしれないけれど、始めの頃の自分をモチーフにしていたときはそういう自分を人はどう見ているのかなってことに興味があって、だから私というか、作品になった私、対、見る人との関係とかを考えてつくってたんだけど、それがきっかけになるのかもしれない。作品にストーリーがあるものをつくりたかったんですね。見る方の人がつくれるストーリーというか。男の子と女の子がくっついて離れるとか、別れるときに(そのカップルが)凧を上げる風習があるとか、いつも漠然としたストーリーしかつくらないんだけど、見た人がそこからどういうふうに話をふくらませるかが……。 ケンゴ 恋多き女だし。 岡田 いやー(笑)。 ケンゴ ところで岡田さんはミヅマアートギャラリー(東京、青山)のスタッフとしても働いていますよね。ここのところとても短いインターバルで作品をどんどん発表していますが、ギャラリーのスタッフという仕事と作家活動との両立について何か気をつけていることなどはありますか。 岡田 ギャラリーではアルバイトとして働いているんですけれど、最初はやっぱり大丈夫かなぁって思っていました。私はアルバイトだからたいした仕事はしていないけれど、ギャラリーのスタッフと作家の両方の立場を知ってしまうとそれはそれでしんどいこともあるかな、とかね。三瀦さん(ミヅマアートギャラリー代表)が理解のある人で、最初から作家としてやっていくという前提でここで働いて、いろいろ見られてお金ももらえるし(笑)、いいじゃないかという感じで入ったから。 ケンゴ それは恵まれていますね。 岡田 そうですね。さっき言ったような葛藤はありましたけど、ここのギャラリーもどんどんいい作家が増えているし、ちょっと変わった作家が多いんだけど(笑)。そういった作家の人達が私の作品に対してコメントをくれたりしてそれはおもしろいですよ。作家同士で知り合いだったとしてもそういうことってなかなか言えなかったりするけれど、ここだとオープンに話してくれたりとかね。ここで展覧会やっている作品から影響を受けて大変、というタイプでも私はないみたいだし。でも自然にいろいろと影響は受けているとは思うし、こういう環境の中でいろいろと吸収できればいいと考えています。 |
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(東京、青山のミヅマアートギャラリーにて)
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昨年東京都写真美術館にて開催された「ラヴズ・ボディ――ヌード写真の近現代」が大阪のサントリーミュージアムに巡回(4月14日〜6月20日)。東京では出品しなかった作品も加えて展示される。 また4月にロンドンにて小さなグループショウに参加の予定。作家は現場に行かず、作品も送らず、現地のスタッフに指示を出すかたちで作品を制作するというユニークな展覧会。現在どんな作品にしようか思案中とのことです。 |
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