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特集=万国博覧会
.貝島桃代

インビトウィーン( 魚の水槽) インビトウィーンその外観 インビトウィーン
▲インビトウィーン(魚の水槽) ▲インビトウィーンその外観
中央地区=エクスポの小さな公共施設とインビトウィーン
中央地区には、既存の建物を利用して、つくられた南アメリカ、カナダ、地中海周辺やヨーロッパの小さな国、アフリカ、中央/東ヨーロッパの国々の入った8つのホールが、アースガーデンを囲んで並んでいる。すでにお昼を過ぎ、全部をみる時間はなかったので、駆け足でそれらの回りを通り過ぎる。けれども2つめの地区に入って、ぽつぽつと連続的に点在する、大きなパヴィリオンの間にある小さな施設が見えてきた。
そのひとつには、エクスポのインフラともいえる、みやげものやのキオスク、電話、ゴミ収集所、トイレ、インフォメーションボックスがある。その多くがユニット化された金属のフレームにリサイクル材料のパネルが貼られている。例えば、トイレは外側は針葉樹系の合板、内側はプラスチックをもう一度熱を入れて、固めたパネルである。白い地の部分に混ざるカラフルなプラスチックがトイレのインテリアとして人々の目を楽
しませる仕掛けになっている。また、みやげものやのキオスクはガラス、ゴミ収集所はメッシュパネル、インフォメーションボックスは布など、貼られる材料によってその機能と見え方を変えているのもおもしろい。
もうひとつは、インビトウィーンといわれる、公募によって選ばれたアート作品である。庭の角や広場に置かれている。10人のアーティストが参加する。電動仕掛けで動く鳩とねずみのいる建物、庭が立体的になることによってできるオブジェやベンチ、空気の入った巨大なチョコレートの人形、表面に貼られたガラスの内部にいろいな光が動く建物や、古くなった電話ボックスをそのまま水槽として利用した作品などがある。
あと加えておけば、なぜかマクドナルドの店が会場のそこら中にたくさんある。世界の言葉「マクドナルド」は万博の必須アイテムかもしれない。
テーマ館=未来の健康館/仕事の未来館
テーマ地区には、古い工場の建物を改装したテーマ館がならんでいる。「人間」「環境」「基本的義務」「食べ物」「未来の健康」「エネルギー」「知識」「仕事の未来」「モビリティ」のテーマでそれぞれ、展示がなされている。
最初に「モビリティ」へ。モビリティの歴史の書かれた、長い待ち合いの廊下を抜けると、向かい合せに置かれた巨大なパノラマ画面だけが浮かぶ暗い、長いギャラリーにでる。パノラマの前には、ベンチがおいていあり、そこにすわって映像を眺めることができる。映像は飛行機、電車、舟などのそれぞれの乗り物がパノラマ画面を右から左まで早いスピードで横断する臨場感のあるもので、2つの動きのある長いパノラマに挟まれた空間は単純に、おもしろかった。
その後は「仕事の未来」へ。ここはフランスの建築家、ジャン・ヌーベルがそのデザインに関わっている。中心には楕円形アリーナがあり、ここでは楕円の周りの壁にそって単管パイプ構造の浅い3階建てのステージが設けられている。観客は360度のステージをアリーナのまん中から座って眺める。ここでは、ベルギー人、フレデリック・フラマンドのコンセプトのダンス・パフォーマンスが30分ごとに行われている。生身のからだと映像がコンピューター処理によって、ひとつの映像になるパフォーマンスが特徴的だ。舞台のバックになる部分のスチールのフレームのところどころに、白いスクリーンと並んで、ブルーバックのスクリーンがかけられ、その前で踊るブルーのスーツのダンサーの体が、別のスクリーンで映像と解け合って写されるといった仕組み。仕事場の風景に重なる、さまざまな職業とユニフォームをまとったダンサー達が360度の舞台で走り回る。
そして、伊東豊雄の設計の「未来の健康館」へ。1室目の待ち合い室は、大きな真っ暗なホールである。突き当たりの壁には、人々の顔写真をモザイク状にコラージュした世界地図、手前には25個のゴアテックスのような半透明の布でできた光のオブジェが並んでいる。その表面にはWHOのインフォメーションが書かれている。そのインフォ
メーションを読みながらぼんやりと暗い森を進む。メインホールへいくと、そこは真っ白の空間である。床は光沢のある白い塗り床、壁の一方は3枚の白く薄い布のスクリーン、反対側は床から天井までのおおきな鏡が貼られ、天井には白い布が貼ってある。鏡の中央には半楕円形のプールがあり、それを囲むように120台のマッサージチェアが並んでいる。けれども、実際は鏡で倍になるので、視覚的には、楕円のプールを囲んで、240台のマッサージチェアが並ぶ空間となっている。その空間に映像と音楽が15分ごとに流れ、その切れ目には一瞬映像が全くなくなる白い空間になる瞬間がある。けれども、その時間に合わせてこのパヴィリオンは運営されてはいない。多くのパヴィリオンはプログラムごとに中に入った人を空にして、次の人を入れるのだが、ここには、そうした完全なコントロールはない。30人ずつぐらいで入れられて、入ると、椅子の3/4ぐらいは埋まっているなかから、あいている席をまず探すというものである。マッサージチェアに腰掛けると、その右の肘掛けのところに、赤く点滅するボタンがあり、これを押すと、自動的にゆっくりと、背が倒れ、足が上がり、寝椅子になる。そして、それが揺りかごのように前後に揺れる。そのゆれが気持ちよくて眠ってしまいそうになる。寝ているところから、顔をあげ、鏡を通して、120の椅子のシルエットが見えている向こうの映像をながめる。細胞や水の模様などの全体のイメージに部分的に、WHOに関わっている人らしい顔の映像と仕事をしている様子、インタビューがモンタージュされる。かれらの字幕スーパーは、鏡でみたときにも読めるように、左右反転された文字も書かれている。音楽も遠くで聞こえている音楽のようである。実体的な感じでなく、感覚的に覚えているような空間。夢のなかのような空間である。万博はとにかく歩く。待つ。多くの情報を見る。このことに疲れたひとが、休むための場所としての健康館。とても抽象的だが、もう一度いってみたくなる、いごこちのいい、美しい空間。
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