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特集=万国博覧会
.貝島桃代

スイス館外観 スイス館内部 スイス館内部 スイス館内部
▲スイス館外観とその内部
▲ハンガリー館
東パヴィリオン地区=スイス館
そして最後の東パヴィリオン地区。ここにはヨーロッパやアフリカの国の30のパヴィリオンと、複数の企業のパヴィリオンが並んでいる。テーマ地区から橋をわたると、この地区の中心部となる、エクスポプラザにやってくる。その前にはこのエクスポのホスト国である、ドイツ館が建つ。けれどもドイツ館にはなんとなく入るのに気が引けて通過、その隣のフランス館も通過する。というのも、なぜか大きなパヴィリオンは入りにくい。そのなかに入ると時間がなくなるのではないかと、つい敬遠してしまう。そこで、そのうしろのスイス館へ。
これはスイスの建築家、ペーター・ズムトー設計のサウンド・ボックスと呼ばれる建物である。50m角に迷路のように木の壁が建っているだけ。ちゃんとした入口があるわけではないので、壁のすき間から何となく入ってゆく。案内板もないので、どこになにがあるのかさっぱり分からない。だから誰もが結果的に、木のかおりのする迷路をさまよっている。するとすこし入ったところで、広がった場所にでる。みると、ステンレスのバーカウンターがあり、ドイツ語でかかれたメニュが天井から吊るされてカフェになっている。それからしばらくまた行くと、今度は黒いコンクリートの楕円形の部屋にぶつかる。このなかには、赤い表紙の「サウンドボックス」というタイトルのこのパヴィリオンに関する本が売られている。それからまた進むと、またカフェにぶつかる。さっきみたのと同じかなと思ってみると、今度は天井にフランス語のメニューがかかっている。よくわか
らなくなってきたので、ひとまずそこで休憩。早速カフェオレを注文、飲んでいると、今度はスチールの細い棒でつくられた台車にのせたツィンバロンやアコーデイオンを携えたミュージシャンがどこからともなく集まってきて、演奏を始める。するとあれよあれよという間に、その音に誘われて迷路のなかに音楽を演奏する人とそれを聞くひとの輪ができ、なにか場のようなものが誕生した。音楽は木の壁の間を染み入るように響いてゆく。このパヴィリオンはスイスの観光案内は一つもないが、スイスの国の空間そのものだろうと思う。山が木の壁であり、音楽が町だろうか。公用語が4ケ国語あるスイスの文化をあらわしているのが、ドイツ語、フランス語のカフェであり、ミュージシャンやそこに働くひとびとが着ているイダ・グートによってデザインされたユニフォームは、スイスのひつじやヤギ飼いの帽子や道具袋を彷佛とさせる。 壁の木材はスイスから運んでいる。けれども穴をあけたり、くぎを打つことなく、ただ積層させ、それを崩れないように、バネのついた鉄の棒で上下で固定して止めている。木の積層には、種類の違う松材を長手、短手を交互に組み合わせているために、木のすき間から壁の向こうがすけて見え、その間のところどころには、詩がかかれている。エキスポ閉会後は製材として流通させるという。スイスのパヴィリオンそのものも、音楽のように、たまたまできたものとしてある。
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