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特集=万国博覧会
椿 昇
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あきらかに万国博はパラダイムシフトを要請されている。オリンピックも実際に見ることの出来る観客と競技者という閉じた系のなかでは今ほど巨大化することは無かった。予期せざる精神的なドラマと極度に洗練された文化としての肉体を最先端の科学とデザインが包み込み、それを巨大な映像メディアが加速度的に増幅するとき、世界に無限に撒き散らされたブラウン管が人々の心を突き動かす。映像世界の地位と資金を一手に集中したかに思える王者ハリウッドでさえ「スポーツ」という怪物の前では輝きを失う。ヨーロッパの大人たちは、サッカーを見るとき以外ブラウン管に灯を点すことなくひたすら食事とお話に明け暮れる。そこで必要な装置は巨大である必要も高精細である必要も無く、場末の食堂に放置された薄汚れモニタで十分なのである。映像はまさに魔力に満ちている。それは、いくら巨大であっても衝撃的であっても人々の感受性を麻痺させるばかりで何の力も生み出せず、あくまで伝える素材によって神話たりえるのである。
  スイスパビリオン
スイスパビリオン
クールなパヴィリオン

▲ズムトーのスイスパビリオン。最小限の金具とあとはこれから建築に使われる普通の材木で構成

ドイチュラント・システムのパビリオン内部 ドイチュラント・システムのパビリオン内部
▼梱包材のリサイクル会社として成功したドイチュラント・システムのパビリオン内部。ネガポジの葉のデザインがチューブ内部の空気圧を変化させることで遮光幕になったり光りを透過させる外壁になったりする。内部はアーティスト達が社の製品を自由に使いコンテンポラリーなクラブ風に仕上げた。
一種のテーマパークとしての万博が抱える困難は、映像を扱う主体 ではあっても扱われる対象たり得ず、素材として面白くないという自らが抱える苦し みにある。スポーツや映画のような拡張性と拡散性を持たぬがゆえに、膨大な投資回 収を入場料収入に依存せざるを得ないことにある。多くの中小テーマパークがその閉 鎖性(そこへゆかないと楽しめない)と、設備更新にともなう巨額の出費の前に、粗 末な遊園地と化して廃墟となる運命に晒されるなか、最新と言われるハノーヴァーです らその宿命か
ら逃れることが出来てはいない。
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