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World Art Report
市原研太郎
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2001年夏、ヨーロッパで開かれていた展覧会から[1]
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 20001年夏、ヨーロッパで開かれた展覧会のなかから幾つかを紹介しよう。

 
アイルランド
 まず、ヨーロッパ西端の国アイルランドの首都ダブリンで行われた展覧会について。島国のアイルランドは、海を隔てて隣国のイギリスから独立してまだ日が浅く(共和国成立は1949年)、首都ダブリンは、瀟洒で落ち着いた雰囲気の小都市だが、近年経済の活性化に伴って人々とりわけ多くの若者が集まり、美術館、ギャラリー、パブ、レストラン、クラブの犇めくダブリンの中心街テンプル・バーは、夜遅くまで賑わっている。
しかし現代アートとなると、専門のギャラリーは少なく、大きな展示施設としてヒューストン駅近くに近代美術館、トリニティー・カレッジ内にダグラス・ハイド・ギャラリーなどがあるくらいである。この近代美術館には、イギリスのテイト・ギャラリーが主催するターナー賞と同じく、現代アートを対象としたグレン・ディンプレックス賞があり、その候補者の展覧会が行われていた。過去にウィリー・ドハティやシオバン・ハパスカが受賞し、今回で8回目となるこの賞を獲得したのは、結局マシュー・バーニーだったが、彼を含めて4人のアーティストの作品は、広大な病院を改装して作られた美術館の一角に展示され、アイルランドにおける現代アートのレベルの高さを十分に知らしめる内容だった。候補者の一人、スコットランド出身で現在ベルファストに在住しているスーザン・フィリップスに聞いたところでは、アイルランドと地続きの北アイルランドでは、紛争が収まり平和が戻るにつれ、現代アートの活動が盛んになり刺激的な展覧会や作品に出逢う機会が増えたとのこと。残念ながら今回の取材では訪れることは出来なかったが、是非行ってみたい場所の一つだ。その他、ダグラス・ハイド・ギャラリーでは、フランチェスカ・ウッドマンの写真展、アンネリース・シトルバとベルンハルト・ショビンガーの二人展が開かれていた。特にシトルバのヴィデオは、能面をつけた女性が、魚眼レンズの視界の前を行き来しながらジェスチャーする姿を捉えていて幻想的である。

ダブリン、近代美術館、中庭風景▲近代美術館、中庭風景
アンネリース・シトルバ▲アンネリース・シトルバ
スーザン・フィリップス▲スーザン・フィリップス フランシス・ベーコン(パンフレット)
ヒュー・レイン・ギャラリー、正面入口▲フランシス・ベーコン(パンフレット)
▼ヒュー・レイン・ギャラリー、正面入口

シトルバによる豊臣秀吉の言葉「人生は夢のごとく」の引用は、存在がイメージだという彼女の信念を表わしているかのようだ。またヒュー・レイン・ギャラリーでは、イギリス人でアイルランド生まれのフランシス・ベーコンが使っていた(カオスの極みで有名な)アトリエが、そっくりそのまま寄贈されて初公開され、所蔵作品も同時に展示されていた。コンピューターに収められたベーコンに関する周到なデータともども、このギャラリーのベーコンのコレクションは一見に値する。

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