ドイツ
次にドイツで行われていた展覧会について。他のドイツの都市とは違って、ハンブルグには大きな美術館としてクンストハーレがある。他と異なるというのは、クンストハーレという名称は、通常美術館に使われないからである。古典から現代までの優れた作品が展示されているこのクンストハーレはドイツ有数の美術館といってよいが、数年前現代アート部門の建物が増設されさらに充実した内容となった。ハンブルグにはクンストハーレだけでなくクンストフェラインがあり、そこでコジマ・フォン・ボニンの個展が開かれていた。ドイツ人の彼女は、62年生まれとそれほど若くないが、最近方々の展覧会に出品している。彼女独特のファンタジックでユーモラスな童話的世界がようやく浸透してきたということだろうか。他にダイヒトールハーレンでは、フランス人アーティスト、ジャン−マルク・ビュスタマントの回顧展と、ドイツ人コレクター、グラスリンが収集したドイツの現代アートの作品を多数展示していた。このコレクション展は、現代アートの成立がいかに大コレクターに依存しているか、そして、そのおかげでドイツ人アーティストの生活がいかに安定しているかの証拠となろう。現代アートではないが、美術工芸美術館で、ロシア・アヴァンギャルドの今まで見た中ではもっとも素晴らしい展覧会が開かれていた。20世紀初頭のロシア・アヴァンギャルドが、モダンのマテリアリズムから最大限の力、勢い、運動、エネルギーを引き出したことが手に取るように分かった。
カールスルーエにあるアートとメディア・テクノロジー・センター(略称ZKM)は、名前通りアートだけでなく、メディア・テクノロジーを利用した作品を展示する美術館だが、そこでオラファー・エリアッソンのインスタレーション作品の展示が行われていた。“Surroundings Surrounded”と題されたこの展覧会には、ハイテクというほどではないが、テクノロジーや光学・視覚理論を利用した作品が並べられていた。これらは、過去に彼が発表したインスタレーションの再制作だが、おそらく再制作のためだろう、ZKMの広大なスペースに合わせてスケールアップした作品は、大雑把に見えてしまい、オリジナルの幾何学的フォルムにあった比類ない美しさと神秘性を損なっていた。しかし、現在もっとも魅力的な作品をつくるアーティストの展覧会を、リアルタイムで見られたことは幸運だったといえる。