夏のワークショップ特集
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  子供のためのワークショップ
学芸員がつくる(名古屋市美術館)……原 久子

  名古屋市美術館では91年から毎年「夏休み子供の美術館」という企画展を行なっている。この夏で9回目になるこの展覧会と平行して、ワークショップは93年からはじめたという。展覧会とワークショップの両方の企画を担当している普及担当学芸員の伊藤優子さんに話を聞いた。

 今年のワークショップのテーマは「複製/コピー」。このテーマにそって基本プランを伊藤さんが作成し、講師に迎える山口ももこさんと一緒に内容を検討していったという。対象を小中学生にしぼり、親しみやすい取り組みをしている。(1)版であそぶ、(2)型をとる、(3)くりかえす、(4)しくみを複写する、というように段階的に「複写・コピー」という概念を美術という手法を通して理解することや、表現の手法の事例を体験していく試みになっている。そして、これらのワークショップは収蔵品をつかった「夏休み子供の美術館」展のなかの『現代美術:反復と繰返し』のコーナーの内容とリンクしたかたちをとっている。

(1)版であそぶ「森のポートレイト」

美術館のある白川公園内で樹木のフロッタージュや、葉っぱのスタンプ代わりにして、これらを組み合わせて大きな森をつくる。4〜5名ずつのグループでB全紙を森に描こうというもの。

(2)・型をとる1「にせものアイス」

食べ終えたアイスクリームの器に石膏を流し込み、型をとる。色をつけて、本物にそっくりなにせものアイスをつくる。
美術館の野外にある収蔵品であるゴームリー作品や、和菓子のらくがんをつくる木製の型なども、例として挙げる。型があることで均質なものが複数つくることが可能になることをみせてゆく。
・型をとる2「わたしのヌケガラ」
石膏付きのギブス用の包帯で、自分のからだの一部の型をとって、彫刻をつくる。シーガルの人型の作品などを例に解説していく。ゴームリーが瞑想しながら型をとったことなど。ただ型をとるということにとどまらず、精神的なもの(魂など)を込めることもあるといったを紹介する。

(3)くりかえす「変わらない私・変わっていく私」

小さい頃の写真と、当日の本人の顔写真をポラロイドで撮影し、今の自分の写真をシルクスクリーンで繰り返し印刷する。それらを組み合わせて時間の流れをとりこんだ自画像をつくる。ウォーホルのポートレイトのシリーズなどを例にあげていく。

(4)しくみを複写する「バーガー“ビジュツカン”」

美術作品がもし、バーガーショップのメニューにあったらどうするだろう?作品を商品に置き換えて並べてみる。いつもの作品とは違って見えるかもしれない。
2日連続の講座だが、(1日目)展示作品の写真を自分たちで撮りカードを作成。カードを使って、分類のバリエーション、組み合わせの面白さを考える。(2日目)実在するチェーンのハンバーガー店の協力を得て、メニューの研究。商品を売り出し方(マーケティングなど)のしくみを知る。「夏休み子供の美術館」展を売り出すとしたら、どうするかをグループで考える。美術品をめぐる知的なシミュレーション・ゲームに参加させることで、社会のシステムを理解し、その手法をまったく別な分野に用いて、組み替えを行なうことを体験する。

 作品が生まれるときの作家の意図などを、そのプロセスを自分自身で、ワークショップに参加することを通して体験する。このことが美術についてより理解を深めることにつながるのだろう。造形遊びではなく、美術には“必然”がなくてはならないと伊藤さんは考える。このワークショップが、美術作品をみるということだけでなく、世の中をみるときなど、すべてのものをみるための方法につながる。「ガイドツアーをするときも、街をみるときにも今日のようなみかたをしてみてね」と言って子どもたちを帰すのだそうだ。

夏休み子供の美術館

会期:1999年7月14日〜9月26日
問い合わせ:Tel. 052-212-0001
HP:http://www.art-museum.city.nagoya.jp/

毎年恒例となった子どものためのワークショップ

美術品子ども鑑定団
美術品子ども鑑定団 1996

壁に描く子どもの絵描き工房
壁に描く子どもの絵描き工房 1996

マイ・オウン・スツール
デイヴィッド・ナッシュ展に関連して行なわれたワークショップ
「マイ・オウン・スツール」1994

写真:名古屋市美術館

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はじまったばかりのワークショップの試みの思考錯誤(京都市美術館)
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