1958年生まれ。ウィンチェスター・カレッジ・オブ・アート講師。英国内外で展示多数。もともと抽象絵画の画家であったが、近年スキャナーで拾ったイメージをキャンバスに熱転写し、その上に描くという手法をとっている。
ジル・オードは以前、おもに写真を抽象化した形態的な作品を作っていたが、最近は写真画像を重要な構成要素として、そのまま最後まで残している。写真画像は彼女自身が撮るか、有りものを使うが、それを熱転写技術によってカンヴァスに移し、背景かつ主題にする。そして、アメーバ状ないしは点の集まりを、その画像の上部あるいは中に浮かんでいるように絵の具でペイントする。この「しるし」たちは背景の画像自体のストーリーに対して、ひょうきんな物まねをすることもあれば、逆に反発することもある。後者の場合は、あくまでも色同士の関係や要素間の緊張関係といった形式性にこだわりながら、写真のモチーフに割り込むのである。ベースの画像に侵入し、ときにはその画像を覆い尽くさんばかりともなる「しるし」たちは、絵の手前にたむろするか、風景の上に網目状に浮かんでいることが多い。絵の領域をはっきりさせるためだ。
写真素材を自由に操作し、破壊していくオードの意図とは、目で見、感じ、記憶されるもの同士の関係を、かたちのレベルを超えて追求することである。オードの作品において、写真は彼女自身が生きてきた経緯や視覚体験への手掛かりとなり、有りもの写真の場合は経験的な世界の伝達手段となる。
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