360°ビュー
自然をありのままに伝える 天野尚の世界──天野尚 NATURE AQUARIUM展
大岩剛(株式会社アクアデザインアマノ専務取締役)/西見敬一郎(Gallery AaMo支配人)
2017年12月01日号
対象美術館
水景クリエーター天野尚(1954-2015)が生み出した「ネイチャーアクアリウム」の世界。色鮮やかな水槽と、彼の記録した大自然の大判パネルを組み合わせた展覧会が、東京ドームシティ内Gallery AaMoにて開催中だ。長年天野の撮影アシスタントを務め、現在はアクアデザインアマノ(ADA)の専務取締役である大岩剛氏と、この4月にオープンしたばかりのGallery AaMo支配人である西見敬一郎氏に、この展覧会のみどころをうかがった。
自然をありのまま記録する──写真×ネイチャーアクアリウム
今回の展覧会名にもなっている「ネイチャーアクアリウム」とは、どういうものなのでしょうか?
大岩──海外では、「ネイチャーアクアリウム」と言えば、単なるホビーにとどまらず、日本発のアートとしても認識されています。世界コンテストも今年で17回目を迎え、66カ国2,056組の参加がありました。「ネイチャーアクアリウム」は、天野が提唱したものです。水草を入れて美しくレイアウトするだけでなく、水槽内に循環する環境をつくるのです。すみだ水族館や、今回撮り下ろした映像が展示されていますが、ポルトガルのリスボン海洋水族館で、ネイチャーアクアリウムの展示を見ることができます。
どのようなきっかけでこの会場に決まったのでしょうか?
大岩──天野は新潟ではわりと知られていますが、もっと広く知ってもらいたいという思いがありました。特に天野が亡くなってからは、チャンスがあれば東京でも何かできないかと考えるようになりました。そんな時に、Gallery AaMoさんから声を掛けていただいたのです。
西見──AaMoとは、「Art + Amusement and More!」の頭文字をとったものです。これには、遊びをアートに広げていく、もっとアートを身近にしたいという思いが込められています。東京ドームの近くという立地も活かして、普段展覧会に行かないような人にも足を運んでもらえる場所にしたいですね。これまでに、漫画やアニメを題材にした展覧会も開催していますが、今回取り上げた「ネイチャーアクアリウム」も、ホビーをアートに拡張させる試みとして、まさにぴったりの題材だと感じています。
これまでにも、天野氏の写真展や、新潟のギャラリー(ネイチャーアクアリウム・ギャラリー)での水槽展示などはありましたが、今回の展覧会の特徴を教えてください。
大岩──大きな特徴としては、写真とネイチャーアクアリウムを併せて展示したことですね。水槽の展示は制約が多く、また、天野の写真は大きく引き延ばしてこそ意味があるので、天井高や奥行きが必要になります。その点で、この会場はまさに理想的な空間でした。
天野の使用したカメラは8×20インチの「アマノスペシャル」と呼ばれるもので、世界最大級の特注品です。一般的な35mmフィルムの約120倍の大きさで、視力に換算すると6.0もあります。天野は生前、自然のありのままの姿を捉え、記録することに使命感を感じていました。
ネイチャーアクアリウムは、天野自身の記録のなかから水槽の中に自然を再現することで表現された作品でもあるのです。天野には、写真家と水景クリエーターという2つ顔がありますが、どちらも切り離すことはできません。それらを同時に見ていただくことで、より、天野独自の自然観を感じられる展示になっていると思います。
自然を考えるきかっけに──本当の豊かさとは何か?
展覧会を見に来られる人たちに、特に伝えたいメッセージは何でしょうか?
大岩──自然が急速に失われていくことへの危機感があります。天野の写真とネイチャーアクアリウムを通じて、自然に関心をもってもらいたいですね。天野も、「無関心が一番怖い」と言っていました。天野のアプローチはシンプルで、「美しいものは守りたい」というものです。
興味をもつことで、散歩したりドライブしたりするときの、世界の見え方は変わってきます。「ああ、新芽が出ているな」といった気づきや、周りの色や気候もより敏感に感じられるようになるでしょう。美しいと感じれば、守りたくなるのが人間です。
展示された写真の自然は、いまでも見ることができるのですか?
大岩──残念ながら、いくつかの風景はすでに失われています。日本では、お金を使ってどんどん護岸工事を進めていますが、ドイツでは、曲がりくねった川をつくっています。災害を防ぐことは大切ですが、人間が生きるうえでの本当の豊かさとは何かを考える必要があると思います。
展覧会が実現するまで──設営秘話
今回の展示での苦労話などあれば教えてください。
大岩──まず、水を替えるのが大変ですね。給排水設備はありませんから。バックヤードに4tの水があるのですが、ホースで注ぐので時間がかかります。給湯設備もないので、ヒーターを用意しました。移動温泉ですね。また、日々成長する水草のトリミングや温度管理といったメンテナンスもあります。この会場にはスタッフが2人常駐しています。
機器のデザインも素敵で、これまでイメージしていた水槽とはまったく違う世界です。
大岩──機器は弊社のオリジナルですが、そういった細部も含めて提案し、「これからのアクアリウムはこうだ」というものを提示していきたいと思っています。
設置も大変そうですが、スムーズに完了したのでしょうか?
大岩──最大の見せ場である、特別水槽「巨大ネイチャー水草ウォール」は、高さが3メートル、照明を入れると4メートルもあります。生前天野がアイデアを膨らましていたもので、それを実現化した展示となります。壁面の植物もほほ水草で構成されていて、水中、水面、水上で生活できる水草の特性を最大限に活かした新しいスタイルの水草ディスプレイです。ただ、制作は大変でした。新潟の別社屋の一部屋まるごと天井を抜いてつくりました。輸送にはチャーター機3台、トラックを5台も使っています。
西見──今回の展示は本当にすばらしくて、「新しいギャラリーで、新しいアートを展開させたい」というこちらの思いと完全に合致しました。これからも、どんどん新しいアートを開拓していきたいと思っています。
天野尚 NATURE AQUARIUM展
会場:Gallery AaMo
会期:2017.11.8(水)〜2018.1.21(日)※会期を延長しました
開館時間:
平日 12:00〜17:00
土日祝 10:00〜17:00
※最終入館は閉館時間の30分前まで。
※年末年始の営業時間については下記の通りとなります。
12月30日(土)12:00〜17:00
12月31日(日)12:00〜17:00
1月1日(祝) 12:00〜17:00
1月2日(火) 10:00〜17:00
1月3日(水) 10:00〜17:00
詳細:https://www.tokyo-dome.co.jp/aamo/exhibition/amanotakashi/
アンケートにご協力ください
この記事や展覧会のご意見・ご感想を募集します。
※お寄せいただいた内容は、artscape編集部ならびに、GalleryAaMoと共有し、
今後の記事の参考にさせていただきます。
※募集期間:〜2018年1月15日(月)まで
よろしければ、以下のURLにて質問にお答えいただけると幸いです。(外部サイト)
https://www.enq-plus.com/enq/dnpartcom/aamo171201/