キュレーターズノート

福岡現代美術クロニクル1970-2000

山口洋三(福岡市美術館)

2012年11月15日号

 来年1月5日開幕の「福岡現代美術クロニクル1970-2000」の準備が佳境。ウェブサイトはまだだがFacebookを立ち上げている。展覧会は正月にするものではない。なぜかというと秋が猛烈に忙しくて、他の展覧会がゆっくり見られなくなるからだ(別府も田川も……福岡市から近いからすぐいけるだろうと思っているでしょうあんたたち)。前向きのアートプロジェクトを尻目に後ろ向き(?)の回顧展の情報ばかりで申し訳ない。

 展覧会の内容に関わるおおまかな福岡現代美術の流れについては、2012年5月15日号に一度書いた。最終的に85作家の約130点の出品数。前の記事に付け加えるならば、グループ活動だけを追っていただけではわからない作家のことがある。小山正、川原田徹は、独学で絵を描き、どのグループにも属することなく、かなり独特のイメージを描き続けている。70年代を起点とする本展においては、第一章の冒頭を飾る。前回紹介したゾディアックやIAFはそのあとに来る。活動における両者の直接的なつながりはないが、けっして無視のできない作家たちである。
 前号の記事ではローカルさばかり強調してしまったような気がするが、80年代以降の福岡では他の都市からの作家たちが重要な役割をはたす。
 ここで特筆すべきは、九州芸術工科大学(現、九州大学芸術工学部)を拠点に隆盛した実験映画である。この分野の草分け的存在として知られる松本俊夫が1980年から85年まで同大学で教鞭を執ったが、彼の門下に、伊藤高志、森下明彦、伊奈新祐が登場し、実験映画史上の名作を生み出した。この期間、まさに福岡は「実験映像のメッカ」であった。福岡市美術館もこれに呼応するかたちで実験映像のプログラムを次々に組み、さらにここにフィルム・メーカーズ・フィールド(FMF)の活動、そしてIAFを中心とした現代美術作家の動きも加わり、美術と映像の垣根を越えた交流も生まれた。今回は、松本、伊藤、森下の三作家の代表作と、FMFが取り組んだ8ミリによる3分間のフィルムを公募する「パーソナルフォーカス」のアンソロジーを会期中に上映予定。伊奈のビデオ作品は展示室内で上映。当館で長いこと放置状態だった16ミリ映写機と8ミリ映写機が久しぶりに稼働する。


小山正《手の残像》(1982)


伊藤高志《SPACY》(1981)、16ミリフィルム、福岡県立美術館蔵

 80年代といえばもうひとつ、川俣正の存在が欠かせない。展覧会ではインスタレーションの再現は不可能であるが、これを記録した安齊重男の写真と、いまはなき天画廊で川俣が発表したドローイングを出品予定。同じく天画廊での発表歴がある戸谷成雄、北山善夫も出品する。インスタレーションを福岡でいち早く手がけた作家として阿部守がいるが、彼による鉄のインスタレーション(福岡に移住して初めて発表した作品《MRM》)を、一部再制作を加えて展示。福岡、群馬、札幌の作家たちの交流展「アーティストネットワーク」(1987)関連で、北海道の岡部昌生のフロッタージュ作品もインスタレーションとして出品される。このあたりはかなりの空間を必要とするが、2館共同開催だからできた荒技である。ちょっとした80年代美術の回顧といえるかもしれない。さらに付け加えれば、柳幸典が「アント・ファーム」のシリーズを手がける前に福岡や岩国で展開した「Ground Fishing Project」に関連した作品や、殿敷侃の作品も出品。


阿部守《MRM》(1985)

 90年代に入るとアジアの作家たちが福岡の状況に関わってくる。福岡での発表当時(90年代初期)には日本国内で注目されつつあった蔡國強の《Project for Extraterrestrials No.11「天地悠々」プラン》(福岡アジア美術館蔵)を出品。これは伝説の「中国前衛美術家展『非常口』」(1991)出品作。90年代の福岡といえば「ミュージアム・シティ・天神」への言及が欠かせないが、これに関する作家で全国区の作家としては、森村泰昌、小沢剛、そしてナウィン・ラワンチャイクンがいる。ミュージアム・シティ・天神にも協力してきたIMSビルにおいては、90年代を通して「九州コンテンポラリーアートの冒険」が開かれ、九州の若手作家に門戸を開いてきたが、この展覧会出身作家の1人が、現在別府でBEPPU PROJECTの陣頭指揮をとり、「混浴温泉世界」の仕掛け人として知られる山出淳也である。彼もまた本展の出品作家である。もう1人付け加えるならば、藤浩志の名前を記したい。94年の「第4回アジア美術展」出品をきっかけに福岡県糸島に移住した作家が、当館でのワークショップで制作した作品を出品する。
 同じく90年代では、北九州にCCA北九州が誕生したことが大きなトピックである。今回、CCAの協力を得ることができ、ハミッシュ・フルトンの1999年のインスタレーションを2013年版として再現するし、CCA出身である岡本光博らの映像も加わる。


ナウィン・ラワンチャイクン《博多ドライヴ・イン》(1998)

 無論こうした作家たちは、本展においてはじつは「脇役」なのだが、あまりに豪華すぎて主役がかすみそうである。しかし福岡の外に住んでいる現代美術ファンには、こうしたところをとっかかりにしてほしい。
 すっかり沈滞した福岡の状況だが、この豪華な饗宴/共演が、戻ってくることがあるのだろうか? 展覧会のテーマソングとして水樹奈々の「chronicle of sky」をリクエストします(どこに?)。「伝説の明日」はあるのか?

福岡現代美術クロニクル1970-2000

会期:2013年1月5日(土)〜2月11日(月・祝)
会場:
[A]1970年代〜80年代初めを展示
福岡県立美術館
福岡県福岡市中央区天神5丁目2-1/Tel. 092-715-3551
[B]1980年代初め〜2000年までを展示
福岡市美術館
福岡県福岡市中央区大濠公園1-6/Tel. 092-714-6051